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装画を独立した絵として眺めると 「STORIES 藤田新策作品集」

『STORIES 藤田新策作品集』から。宮部みゆき『ソロモンの偽証 第1部』(上・下)の装画

 本の表紙カバーの絵(装画)は、普通の絵とは違う。パッと目にとまるインパクトが必要。でも、長く手元に置いてもらうには派手なだけじゃダメ。その物語の特徴を示すシーンを魅力的に描くわかりやすさも求められる。しかも本を開けば、お役御免。そう、読者はいつまでも装画を眺めていられない。ジックリ見るという発想がそもそも起きにくい。

 藤田新策は、スティーヴン・キングや宮部みゆき、江戸川乱歩などの装画で知られる。本屋で何度も目にしてきたはずだが、本書ではどれを見ても新鮮に感じる。理由は、絵の上から書名や著者名が消えているから。物語から切り離され、独立した「絵」として見ているからだ。不穏な中にクラシックな静けさが流れているが、ゆっくりページをめくっていくと、互いに無関係な装画が、一つの物語を織りなすように思えてくる。高密度の絵の世界。自家製のキャンバスを作り、描いてきたというのも興味深い。30年以上、文字だけで出来た小説世界を自在に歩き、見つめてきた画家。そんな後ろ姿が見える。=朝日新聞2022年3月5日掲載