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小澤俊夫「昔話の扉をひらこう」 ことばは「音」語ってあげて

 昔むかし、あるところに……。

 国際的な昔話研究者である小澤俊夫さん(91)の『昔話の扉をひらこう』は、子どもの頃の温かい記憶を呼び覚ますとともに、未来へのメッセージに満ちている。

 昔話を語り継ぐことがなぜ大切なのか。日本の「つる女房」や「三年寝太郎」、グリム童話の「灰かぶり」(シンデレラ)などに触れながら説いてゆく。昔話に染みこんだ自然観、語りの法則になるほどとうなずかされる。

 スマホで何でも視聴できる時代だが、小澤さんは断言する。「子どもが、自分が愛されていることを感じられるのは、生の声だけです」。教育論としても読め、ページを繰るごとに自身の子育てを省みることになる。「子ども時代は、急いで知識を詰め込まれるよりも、魂の安定した成長の方がずっと大事だと思うのです」

 2人の息子との「ことば」をめぐる鼎談(ていだん)も収録。音楽家の次男・小沢健二さんと意気投合したのは、ことばはまず「音」であること。視覚・文字情報に偏る現代にあらがう一冊だ。(吉川一樹)=朝日新聞2022年3月19日掲載