写真は静止画だという事実を忘れそうになる。それほどに動きと速度がある写真群だ。
2018年からの1年半、バングラデシュに滞在し、列車の屋根にのぼって無賃乗車する貧困層の人々を撮った一冊だ。
左右に流れてゆく風景、時にブレる人間たち、風に膨らむシャツに、見る者は吸い込まれる。体ごと持ってゆかれる。動画にはない速度感であり、1枚の写真が時間をはらむ。
写真に添えられた文章に、偶然バングラデシュに行き着いたことや、助け合う人々の姿、逆にナイフで脅し金を奪おうとする男のことが記される。生命力に満ちた子供たちの笑顔の写真とともに、友達になった子供が転落して命を落としたことが書かれる。法規制に伴い、誰も屋根に乗らなくなったことも。
動画さながらの写真との効果で、まるで映画を見ているような感覚になる。ロードムービーならぬ、レールウェームービーか。
旅の終わりが美しく、切ない。=朝日新聞2022年4月2日掲載