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「犯罪の証明なき有罪判決」書評 戦後の司法の歪み 丹念に追う

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2022年04月16日
犯罪の証明なき有罪判決 23件の暗黒裁判 著者:吉弘 光男 出版社:九州大学出版会 ジャンル:司法・裁判・訴訟法

ISBN: 9784798503233
発売⽇: 2022/01/26
サイズ: 21cm/301p

「犯罪の証明なき有罪判決」 [編]吉弘光男、宗岡嗣郎

 刑法学者ら12人が、戦後日本社会の司法の歪(ひず)みを検証して不透明な部分を明かした書と言えるのだが、読み進むだに、司法自体が新たに「犯罪」を犯しているのではと思いたくもなる。
 本書のキーワードは「暗黒裁判」という語である。
 「そこに・あった・事実」から遊離したところで、どうして真偽の認識が可能なのだろうか。ところが、日本の裁判官は「判定しえないことを平然と判定する」といい、これが暗黒裁判を生み出すというのである。
 一般にもよく知られている戦後の23の裁判が、暗黒裁判と呼べる所以(ゆえん)を、本書は丹念に追っている。共通しているのは、警察・検察の見立ての誤り、別件逮捕、長時間の取り調べ、時に拷問、さらには証拠隠しなどが行われていることだ。特に昭和20年代の事件(八海〈やかい〉事件、財田川事件など)を見ていくと、より鮮明にフレームアップの実態が浮かび上がるという。
 本書で取り上げられている免田、財田川、松山、島田の4事件は、死刑確定後の再審無罪事件だ。これらは「例外中の例外」であり、中には誤判と思われるケースで死刑が執行された例もあるという。
 本書は裁判官が検察官に追随する「判検一体」を問題視する。具体的に裁判官の名を挙げてもいる。第2代最高裁長官らが「戦前の刑事裁判実務」を引き継ぎ発展させてきたともいい、暗黒裁判を生んだ当事者だと弾劾(だんがい)している。
 「調書に・書かれた・事実」が「そこに・あった・事実」と異なる時、「論理的可能性」という言葉で弁護側の言い分を却下する裁判官がいるという。そうして「調書裁判」に傾く可能性もまた高い。被告人や弁護側の反論が極めて難しくなり、反論権が実質的に機能しなくなる。暗黒裁判はこうした構図でも生まれているというのである。
 暗黒裁判は国家的犯罪との理解のもと、国民による刑事裁判の監視で誤判の激減を、との結語が切実だ。
    ◇
よしひろ・みつお 久留米大法学部教授▽むねおか・しろう 同大法学部特任教授。著書『犯罪論と法哲学』。