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村上たかし「ピノ:PINO」 人間の知能得たロボットが問う心

©村上たかし/双葉社

 先日のホンダのヒト型ロボット「アシモ」引退の報に一抹の寂しさを覚えた人は多いだろう。掃除ロボットにすら名前を付けてしまう我々だからヒト型には一層愛着が湧く。

 本作の主人公ピノは近未来のヒト型ロボット。人間の知能を超えたAIを搭載し、いろんな現場で働く。そのうち1体は山奥の無人研究所で新薬開発のための動物実験を担う。自分で育てた動物を実験のために殺す。「AIが――ピノが――心を持たない存在で良かった」。施設責任者の研究員は、そう思う。

 しかし、動物実験の全面禁止に伴い、危険な病原体を扱う研究所は爆破処分に。命令どおり自ら起爆ボタンを押すピノ。ところが、秒読みが始まると、ピノは動物たちを逃がそうとする。なぜピノはそんな行動を取ったのか。その「誤作動」の原因を調べる調査員、貧民街で認知症のおばあさんの介護をするピノ……いくつもの運命の糸が絡み合う。

 AIが心を持つことはあるのか。あるとすれば、どんな条件が必要か。作者はAIの専門家ではない。しかし、提示された結論には説得力がある。それは「人間とは何か」「死とは何か」という問いにもつながるものだ。まさに人間の心の根源に迫る物語である。=朝日新聞2022年4月16日掲載