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「僕の狂ったフェミ彼女」書評 「説明してもわからない」の先に

評者: 金原ひとみ / 朝⽇新聞掲載:2022年05月21日
僕の狂ったフェミ彼女 著者:ミン ジヒョン 出版社:イースト・プレス ジャンル:小説

ISBN: 9784781620633
発売⽇: 2022/03/17
サイズ: 19cm/335p

「僕の狂ったフェミ彼女」 [著]ミン・ジヒョン

 友達も皆結婚し、親からもプレッシャーを感じている主人公スンジュンは、ある日、中絶合法化を求めるデモに出くわし、四年前不本意な別れを迎えた元彼女と再会する。
 フェミニストとなり、かつてとは見た目も話す内容も全く違う彼女に戸惑うものの、再会以来彼女のことが頭から離れない。スンジュンは知恵を絞り、「ハンナム(ミソジニー的な考え方の男性を批判する呼称)だって変えられるはずだろ! ……男一人変えられなくてどうする?」と煽(あお)って付き合おうと言い寄り、条件付きで付き合い始める。
 だが二人の関係は決して甘いものではない。今日あったことや、YouTubeの面白い話をしたいスンジュンに対して、彼女は常に次から次へと起こる性暴力事件に憤っており、自身もセクハラ被害に悩んでいるのだ。二人はすれ違い続け、ぶつかり続ける。
 「説明しないとわからないことは、説明してもわからないんだよ」。終盤、彼女の吐く言葉は重い。これはフェミニズム問題には留(とど)まらない、多様性が重視され、人と人との差が可視化され始めた現代の課題でもある。同僚でもクラスメイトでも家族でも、相手がどんな戦場で、どんな戦いをしているのかは、互いの歩み寄りがなければ一切窺(うかが)い知ることはできないのだ。
 しかし本書は分かりやすい「説明」でもある。可愛く従順な女の子と結婚したい僕から見える、男に頼って楽に生きればいいのにフェミニズムに堕(お)ちてしまった彼女。彼女に呆(あき)れられ罵倒されても、問題意識を共有できず「ハンナム」から足を踏み出せない僕。二人の台詞(せりふ)は、それぞれの在り方の解説でもある。
 「説明してもわからない」という彼女の絶望は、本書によって希望に変えられている。何層にも重なる断絶のレイヤーを本書が少しでも溶かし、多くの壁や溝に苦しむ恋人、家族、友人関係に実りある気づきを与えることを祈ってやまない。
    ◇
1986年生まれ。韓国でドラマや映画の脚本を手がけ、性暴力予防教育講師としても活動中。本書が初の長編小説。