作家の村上春樹さんの著書や資料を集めた早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)で、シンガー・ソングライターのスガシカオさんを招いた「キャンパス・ライブ」が5月25日に開かれた。聴衆は千人を超える応募から選ばれたわずか十数人。ともにライブを楽しんだ村上さん、司会の坂本美雨さんとのトークも盛り上がり、楽しくぜいたくなひとときとなった。
スガさんは村上作品の長年の愛読者。村上さんはスガさんのライブに何度も足を運んでいるという。村上さんの長編『アフターダーク』(2004年)には、コンビニで流れている曲として、スガさんの「バクダン・ジュース」(1997年)が登場する。この日はその「バクダン・ジュース」をはじめ、「19才」「ヒットチャートをかけぬけろ」「黄金の月」など7曲をギターに重ねて歌った。
スガさんは「村上さんの文章は情景が頭に飛び込んでくる」と、こんな思い出を披露した。3作目のアルバム「Sweet」(99年)のジャケットを早稲田大の学生寮で撮影したときのこと。初めてなのになぜか「ここに来たことがある」と思ったそうだ。「何で来たことがあるんだろう、あ、ここは『ノルウェイの森』の場面だ、と気づきました。何回も読んでいたので、頭の中に景色が刷り込まれていたんです」
村上さんはスガさんの歌詞が好きだという。「何が何だかわからないけれど、理不尽な、ある種の暴力性がある。ストーリーの真ん中だけ抜いたような、情景の残る歌詞だと思う」。スガさんは「全部を言わないように目指している。これは春樹さんの影響が大きいです」。小説と歌詞、ジャンルは違えど、情景をどう描くかで二人は一致する。旅行記『雨天炎天』や短編「めくらやなぎと眠る女」が好きだというスガさんに、村上さんは「書いたものは読み返さないから忘れちゃう」と照れくさそう。
村上春樹ライブラリーでは今後も、文学だけでなく、音楽や演劇など広く文化芸術を語り、考える場を目指していくという。(中村真理子)=朝日新聞2022年6月8日掲載