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光明を感じる「学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか」など杉田俊介が選ぶ注目の新書2点

「学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか」

 教育学者の広田照幸『学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか』(ちくまプリマー新書・946円)を読み、人の子の親として、この社会の大人として、蒙(もう)を啓(ひら)かれる新鮮な感動を覚えた。教育基本法の理念によれば、学校教育の目的は「平和で民主的な国家及び社会の形成者」を育成することにある。たんに既存の社会に適応するとか競争社会で生き延びるためではない。子どもたちが未来の社会を作り出す主人公になること、それが教育の本来の理念なのだ。そのために学校では記号化された「世界の縮図」を学ぶ。経験的な日常から一度離れる。だから「退屈」であり、ゆえに「大切」である。この世界は人間の地道な努力で「よくなっている」のであり、その主役は未来の子どもらなのだ。
★広田照幸著 ちくまプリマー新書・946円

『依存症と回復、そして資本主義』

 中村英代『依存症と回復、そして資本主義』(光文社新書・968円)は、依存症の支援団体の調査をもとに、依存症は個人の病理であるより、社会の側の問題であると分析する。それはむしろ現代資本主義の臨界点を照らし出す。個人の「意志」ですべてを管理し支配できる、という思い込みこそが病的な強迫観念なのだ、と。回復とはたんに病気から癒えるのみならず、新しい社会の可能性を作り出すことそのものだ。ここにもまた「世界はよくなっていく」という光がある。
★中村英代著 光文社新書・968円=朝日新聞2022年6月11日掲載