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BL担当書店員が選ぶ【2022年上半期】マイベストBL

スーツ男子が活躍する上質なお仕事BL(井上將利)

 皆さん、お気づきでしょうか、今年もあっという間に半分近くが終わってしまったという衝撃の事実に。(ついこの前、年越しした気がするのは私だけ?笑)

 となれば2022年のBL事情も折り返しということで、ここまでのマイベスト作品をご紹介させて下さい! 今年もさまざまな作品が登場しましたが、その中で「これだ!」と選び抜いたのはマミタさんの「ギンモクセイの仕立て屋」(全2巻、徳間書店)です。

 35歳で脱サラし、祖父のテーラーを引き継いだ生吹(うぶき)。店はかつて繁盛していたものの客足が遠のき存続の危機に瀕していて、生吹は店を立て直そうと必死でしたが、今日もお客はゼロ……。ところがある日、店にモデルのような男がやってきてテーラーを立て直してやるから自分を雇えと言うのでした。「俺に賭けろ」と真っ直ぐな眼差しで言われた生吹は、戸惑いながらもなし崩し的に彼の提案を受けることに。

 男は名前を灯生(てお)と言い、実は超一流レストランのメートル・ドテル(給仕長)を務めていた、界隈では名の通った有名人でした。そんな男がなぜウチの店に?と生吹の謎は深まるばかりですが、その辺りは読んでのお楽しみ。

「ギンモクセイの仕立て屋」より Ⓒマミタ/徳間書店

 そして彼らはテーラーの再建に向けて動き出すのですが、まずは2人について触れていきましょう。生吹は周囲の反対を押し切り脱サラ、しかし店は経営難……等々、近頃は踏んだり蹴ったりなこともあり少々闇落ちしていましたが、本来は素直な良い子なんだなと感じさせてくれるキャラクターです。そして灯生の圧に押されながらも、遠慮がちに彼の顔を見上げる生吹は可愛いのです。一方、元メートルの灯生はまさにイケメン! 知的で行動力があり際立つ存在感が溢れんばかりな男ですが、2人でお酒を飲んだときに初めて見せたスキのある表情がたまりません。「あと1分」「1分だけだぞ」という会話もいいですね。(実際は5分くらいやってそう!)

 僕はマミタさんの「となりのメタラーさん」(徳間書店)も大好きなのですが、とにかく男性の「可愛さ」を表現する描き方が素晴らしい作家さんです。さりげない一瞬に見せる表情が確かに男性なんだけども間違いなく可愛いという、マミタさんならではの魅力が本作にも詰まっています!

 ちなみにテーラーであるお店も細部まで描かれており、僕自身スーツをオーダーで作ることがあるんですが、忠実に再現されているなと驚きました。作品全体が本当に丁寧に創られていて、上下巻にわたり2人を中心とした気持ちのぶつかり合いが楽しめるはず。

 スーツの似合う男たちによる上品な作品を上半期マイベストとして自信を持っておススメ致します!

恋人とも違う、絶妙な関係のイチャイチャがたまらない!(原周平)

 2022年もあっという間に半年経ってしまいました……! 人生を豊かにしてくれる作品がたくさん登場して幸せいっぱいでしたが、この上半期、1冊を選ぶなら、ということでこちらの作品を紹介させていただきます。

 草間さかえさん「外村探偵社の招かれざる客」(幻冬舎コミックス)

 舞台、キャラクター、物語……いろんな要素が自分のツボを突いてくる作品でした(笑)。どこかにありそうな商店街で探偵業を営む松田。強気、だけど不憫。メガネ、細マッチョ、受けと素敵な要素てんこ盛りです! が、本人は不幸体質を自覚していて何かと面倒なことにも巻き込まれがち。とある依頼をきっかけに、高校の同級生・神子(かみこ)と再会し、流されるまま住所不定な彼を居候させることになります。学生の頃からモテていたけど、付き合った女の子を幸せにしたらポイっと捨てるように別れる神子を、当時の松田は不幸な子が好きな悪魔と呼んでいたことを思い出します。飄々としていて何を考えているのかわからない神子。ノンケだと思っていたら、不幸な松田に引き寄せられるかのように言い寄り体の関係に……。

 2人の物語の始まり方もアダルトな大人な感じといいますか、さわやかさがない(いい意味で)ところが面白いです。イケメンで掴みどころのない神子と、よくキレているけどなんだかんだ面倒見がよいというか、他人をほっておけない松田の凸凹なコンビのやり取りには笑わされます。2日泊めるだけのはずだった神子がしれっと居座り、自称・探偵助手として働きはじめるとか(笑)。そうそう、本作は探偵業で舞い込む依頼もいくつかあって、それほど広くない世界での妙に生々しい人間ドラマが繰り広げられていて、BLじゃない部分の読み応えもある作品なんです。

 神子と話している時はだいたい額に血管の浮いている松田ですが、彼を追い出そうとはせず、Hも求められるままほぼ毎日のようにしているようで(笑)。そんな日々を過ごしながら、ふとした時の2人の距離感が、少しずつ縮まっていくのが垣間見えるシーンにはキュンとします。

「外村探偵社の招かれざる客」より ⒸKUSAMA SAKAE, GENTOSHA COMICS 2022

 2人ともキャラは違えどどちらも素直に好きとか言わなそうなので、こういう絶妙なイチャイチャがたまりませんね!

 物語終盤は松田がトラブルに巻き込まれてちょっとヒヤヒヤしますが、どのような決着を迎えるかは読んでのお楽しみです。これまでの依頼や高校時代の話が伏線になっていたりもして、ここでこう来るか、この人が出てくるか~!と感心しちゃいました。単巻でも260ページ近くあってすごく読み応えもあります。明確に恋人という型にハマらない不思議な関係がこの2人にはちょうど良いよね、と思える、普段読んでいるラブラブなBL作品とは一味違った読後感を堪能できる作品でした!