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天皇の最高諮問機関の全体像を明らかにする『枢密院 近代日本の「奥の院」』 田中大喜が選ぶ注目の新書2点

『枢密院 近代日本の「奥の院」』

 かつて日本には、枢密院という天皇の最高諮問機関が存在した。望月雅士『枢密院 近代日本の「奥の院」』(講談社現代新書・1320円)は、1888年の誕生から1947年の廃庁までの軌跡をたどりつつ、ベールに包まれてきたその全体像を明らかにする。
 枢密院は内閣とともに天皇の政務を支えたが、施政には関与せず、内閣に対する牽制(けんせい)と均衡を原理とした。内閣による戦時体制の構築と戦争遂行に批判的な姿勢を示し続けた点にその自負が垣間見えるが、これらに歯止めをかけられなかった点は施政不関与とされた枢密院の限界を露呈させており、歯痒(はがゆ)い思いがする。
★望月雅士著 講談社現代新書・1320円

『帝国日本のプロパガンダ』

 枢密院が存在した時期は、日本が対外戦争に邁進(まいしん)した時期と重なる。貴志俊彦『帝国日本のプロパガンダ』(中公新書・924円)は、対外戦争に対する国民の支持を調達したプロパガンダ(政治宣伝と戦争報道)の実態と変遷に迫る。
 国家がプロパガンダを主導・統制することで、国民は戦争という非常事態に駆り立てられた。敗戦後、日本では国家プロパガンダは過去のものとなっているように見えるが、非常事態は戦争に限らず感染症の拡大のような形でも不意に訪れる。国家プロパガンダもいつ再生してもおかしくなく、その恐ろしさを改めて直視しておく必要があるだろう。
★貴志俊彦著 中公新書・924円=朝日新聞2022年7月9日掲載