第10回河合隼雄物語賞・学芸賞の授賞式が8日、京都市内であり、小説『あしたの幸福』(理論社)で物語賞を受けた児童文学作家のいとうみくさんと、人文書『計算する生命』(新潮社)で学芸賞を受けた独立研究者の森田真生(まさお)さんがあいさつした。
いとうさん「読んで顔を上に向けてもらえたら」
『あしたの幸福』は交通事故でパパを亡くした中学2年生の少女が自分の居場所を守ろうと、別れて顔も知らなかった母親とパパの婚約者と3人で同居して、人間関係を結んでいく。
選考委員の小川洋子さんは「児童文学が受賞したことをきっと河合隼雄さんが喜ばれている」とし、こう評した。「主人公のキラキラした生命力が小説を支える。突然の不幸に踏みつぶされず、あしたの幸福を信じて一歩踏み出そうという物語にさわやかな読後感を得た」
いとうさんは「世の現状は目をそらしたくなることが多い。その中で、登場人物が生きることをあきらめない、現実を超える物語を書きたい。読んだ人がちょっとでも顔を上に向けてもらえたら」と話した。
森田さん「矛盾と向き合い思考していきたい」
森田さんの受賞作『計算する生命』は数学のダイナミックな概念から生命の秘密に迫ろうとした。選考委員の中沢新一さんは「タイトルは人間の比喩。しゃれている。計算能力が近代において何なのか、考え抜こうと森田さんは苦闘している。欠点といえば文章がうまいところかな」と評した。
森田さんは「計算という数学の宇宙を探求する旅に出たが、その途中で別の宇宙に出会った」と話した。2人の子どもが生まれたことだった。矛盾をはらんだ子どもたちの存在を前に、計算と生命が結合した著書にはならなかったという。だが、受賞したことで「矛盾と向き合って思考していこうと背中を押してもらった」と笑顔で語った。(河合真美江)=朝日新聞2022年7月20日掲載
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