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山内マリコさん連作短編集「一心同体だった」インタビュー さえない平成、必死に生きた私たち

山内マリコさん

 10~40歳の女性たちがそれぞれのライフステージで直面する困難と女同士の友情を、八つのストーリーで描く連作短編集。主人公8人はいずれも山内さんと同い年の1980年生まれで、90~2000年代に青春を過ごしたロスジェネ世代だ。

 カラオケで椎名林檎を熱唱した高校時代、コンサバファッションブームに屈した20代半ば――。固有名詞の連打で振り返る平成史のスケッチは、同世代の読者にとっては悶絶(もんぜつ)必至。「この世代の女性全員を主人公にしたかった」という通り、個性も趣味嗜好(しこう)もさまざまな8人の中に、読者は自分の片鱗(へんりん)を見つけるだろう。

 お花屋さんかケーキ屋さんの2択しかない「将来の夢」、白いワンピース姿の美女が死ぬ映画、未婚女性を見せしめにする結婚式のブーケトス……どのライフステージにおいても、社会には「女性はかくあるべし」というメッセージが張り巡らされており、それらを内面化した彼女たちの七転八倒は切ない。

女性の違和感や苦難「40歳の今だから見えてくるものある

 男尊女卑とルッキズムを温存した大学の映画サークルのエピソードには、山内さん自身の体験も紛れ込んでいるという。「リアルタイムではわからなかったことも、40歳になった今だからこそ見えてくるものがある。答え合わせのような気持ちで書いていました」

 圧巻は、子育て中の女性のツイッター上のつぶやきで構成された最終章。彼女は有能な携帯ショップの店長だったが、妊娠をきっかけに退職することに。産休制度がない職場で同僚から向けられる「妊娠は病気じゃないからね」という嫌み、家事・育児を分担しない夫への違和感……一人の女性の人生のリアルがタイムライン上に立体化する。

 「震災以降、ツイッターが社会的なインフラとして注目されましたが、女性たちにとっても画期的でした。社会で遭遇する女性特有の苦難を、史上初めて横のつながりで共有できるようになったからです」。そして平成は、「#KuToo」と「#保育園落ちた日本死ね」で再燃した史上何度目かのフェミニズムのうねりの中で幕を閉じる。

 振り返れば、バブルの栄光も去り、経済的困難の中で女性の生き方も保守化した平成。「さえない30年で、何を書いてもしょぼくなる時代です」。でも、私たちはその時代を紛れもなく生きていた。ダサくても、必死に。この作品集は、そんな女性たちに捧げられた等身大の記念碑なのだ。(板垣麻衣子)=朝日新聞2022年7月20日掲載

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