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「冷凍コンテナごはんで料理のハードルを下げる」 時短料理研究家ろこさんインタビュー

時短料理研究家ろこさん

【レシピはこちら】

時短料理研究家ろこさん「私の一品」 ガッツリ食べられて大人気「照りチキ混ぜそば」

詰め、冷凍し、チンするだけ

――ろこさんは「時短料理研究家」というユニークな肩書きで活動されています。「時短」を看板にすえた理由は?

 料理研究家の方々がたくさんいらっしゃるなかで、自分の強みって何だろうと考えたときに頭に浮かんだのが「時短」だったんです。

 私自身、結婚して子どもができてとライフステージが変わるなか、以前のように料理に時間をかけることが難しくなっていったんですよね。そこで、いかにラクに効率よく料理することができるか、工夫するようになりました。さらに、4、5年ぐらい前から、訪問調理の仕事をするようになって、その意識が強くなっていったんですよね。3時間という決められた時間の中で料理をしなければなりませんから。自宅で時短術を考えては試し、訪問調理先で実践していくことを積み重ねていくうちに「時短」が自分の強みになっていました。

――そうやって「時短」を突き詰めて生まれたのが、ろこさんの代名詞ともいえる「冷凍コンテナごはん」なんですね。

 訪問調理先で私がうかがえない間も簡単にできるものを作ってほしいと頼まれたのがきっかけで、「冷凍コンテナごはん」を開発しました。

 3ステップで簡単にできるのがいちばんの特徴です。食材をコンテナに詰めて、冷凍して、電子レンジでチンするだけ。冷凍の作り置きって、冷凍する前に食材を下茹でしたり炒めたりと加熱する場合が多いんですけど、「冷凍コンテナごはん」ではコンロの火は一切使わないのがポイントです。

――冷凍すると味が落ちてしまう気がするんですが、そんなことはないのでしょうか。

 私も以前は冷凍に対して同じようなイメージを持っていました。でも、そう思い込んでしまうのは、おそらく冷凍のやり方が間違っていたからだと思います。例えば、スーパーでお肉を買ってきてパックのまま冷凍してしまうと、お肉から出ているちょっと臭みがある赤い汁(ドリップ)も一緒に冷凍してしまうので、おいしくありません。

――まさに忙しいとそのまま冷凍庫に入れてしまいがちでした……。やっぱりパックから出してラップに包んで冷凍するのがいいんですね。

 確かに冷凍方法としてはそれでいいんですが、忘れられた食材になりがちなんですよね。冷凍庫の片隅にぽつんとあるような。

――冷蔵庫を掃除して発掘される食材ですね。身に覚えがあります(笑)。

 せっかく冷凍保存していても忘れられていたら、食材を活用できませんよね。ならば、食材を買ってきたら、料理として味付けをしてコンテナやフリーザーバッグに入れて冷凍する。そうすると、食材の存在を忘れてしまうこともないし、調味料が食材をカバーしてくれて冷凍焼けも防げるんです。

――近著の『時短料理研究家ろこさんの魔法の冷凍コンテナ&パックレシピ』(宝島社)では、コンテナに保存する「冷凍コンテナごはん」とフリーザーバッグに保存する「冷凍おかずパック」という2つの冷凍術を使ったレシピを紹介されています。この2つは、どんな使い分けをすればいいんでしょう?

 「冷凍コンテナごはん」は1食分、「冷凍おかずパック」は2人分のレシピになっています。なので、例えば、家族の晩ごはんを作っておきたいのなら「冷凍おかずパック」、子どもたちのお留守番ごはんには「冷凍コンテナごはん」がおすすめです。当初、私の想定にはなかったんですけど、「冷凍コンテナごはん」を遠方に住んでいる高齢のご両親や一人暮らしを始めたお子さんにクール便で送るという方もいらっしゃいます。

――それは冷凍ならではの便利さですね。

 ある方は、ちょうどコロナ禍で飲食店も早く閉まってしまって外食もできない、コンビニやスーパーも仕事が終わるころにはお弁当などすぐに食べられるものが残っていないという状況のときに、一人暮らしを始めたばかりの息子さんに「冷凍コンテナごはん」を作って送ったそうで、栄養バランスの心配がなくなっただけでなく、空になったコンテナが送り返されるたびに息子さんとのコミュニケーションが生まれたともおっしゃっていました。そうやって、インスタのフォロワーさんから、思わぬ活用法を教えてもらうこともあります。

『時短料理研究家ろこさんの魔法の冷凍コンテナ&パックレシピ』(宝島社)

アレンジの楽しさで料理への情熱が高まる

――そもそも、ろこさんが料理に興味を持つようになったのは?

 小さいころから料理をする機会はわりとあったんです。それこそ、幼稚園に入る前から、妹と交互にお米を研ぐ当番など簡単なことはやっていました。小学生くらいになると、料理事典みたいな基本的な料理のレシピが載っている本を見ながら、レシピどおりに作るということをよくやっていましたね。料理を作ると、食べる人、家族が喜んでくれるというのがうれしくて作っていました。

 高校1年生のときに母が骨折をしてしまい、そこからは私が自分と妹のお弁当作りと日々の食事作りをするようになりました。そのときは、料理はやらざるを得ない、毎日の義務という感じでしたね。正直、楽しいとかは全くなかったです。

 それが20歳くらいの時に、近所で開かれていた栗原はるみ先生の料理教室に通って、料理の楽しさに目覚めたんですよね。それまでは、何でもレシピどおりに基本に忠実に作っていたんですけど、そこでアレンジすることの楽しさを初めて知って、本当に料理が好きになりました。基本に忠実な分、レシピに載っている材料がないと作れないと思い込んでいたところがあったので、根本を覆されるほどの衝撃を受けたんですよね。それからは、どんどん自分でアレンジするようになって、料理が面白くなっていきました。

――アレンジができるようになると料理の幅も広がりますもんね。でも、アレンジは料理上手な人や料理経験が豊富な人にしかできないイメージがあります。

 アレンジをするって考えると難しいイメージになっちゃうかもしれないんですけど、逆にアレンジって基本どおりじゃなくてもいいということなんですよね。レシピどおり、基本に忠実に作る方が実は制約がある。例えば、レシピに鶏肉とあるけど冷蔵庫には豚肉しかないのであれば、豚肉で同じように作ってみればいいだけなんです。アレンジっていっても、それくらい気軽でいいんですよ。

 私のレシピの場合は、まずレシピどおりの材料で1回作ってみて、出来上がりのイメージを持ったうえで、どんどんアレンジしてくださいとお伝えしています。

――料理を仕事にするようになって、料理に対する考えに何か変化はありましたか。

 料理が仕事となると、おいしいのは当たり前なので、あとはそこにプラスαの付加価値をどう付けるかを考えるようになりました。私の場合は「時短」をうたっているので、火を使わない、包丁を使わないなどして、いかに手早くできるかを大事にレシピを考えています。

 あと、自分のレシピでは、基本的にはスーパーで売っているような手に入りやすい食材や調味料しか使わないというのと、食べる際のレンジ加熱は1回だけと決めています。よく1回チンした後に電子レンジから出して混ぜてからもう一度チンするといったレシピもありますけど、そのひと手間がハードルにもなりかねないし、レンジ加熱が1回だとその間ほったらかしで加熱時間によっては他のことができることもありますよね。なので、そこはかなりこだわって試作を重ねてレシピを作っています。

『時短料理研究家ろこさんの魔法の冷凍コンテナ&パックレシピ』(宝島社)より

魚料理も簡単に

――冷凍術を活用した時短レシピなうえに、レンジ加熱1回というこだわりの制約のなかで、多彩なバリエーションを生み出せるのはすごいですね。最新のレシピ本でも93ものレシピが収録されています。レシピ作りの源となるものは何かあるんでしょうか。

 コンビニの商品はすごくよく見ます。食材の組み合わせや味付けなど、やっぱりとても研究されているんですよ。あとは自分がよく行くお店でおいしかった料理はレシピを教えてもらって参考にしています。そうやっていいなと思ったものを自分のレシピに落とし込めないか、いろいろ試してレシピを考えています。

――ろこさんは今も訪問調理の仕事を続けられているそうですが、訪問調理を通して現代の家庭料理について何か気づいたことなどありますか。

 訪問調理はその家にあるもので作るのが全てなんですよね。例えば、アレルギーのある家庭もあれば、出身地などゆかりのある土地の調味料を使っているお宅もあります。家庭料理とひとくちに言っても、各家庭の事情や好みなどで必要とされているものは異なるように感じますね。

 あとは、皆さん、やっぱり魚料理に対するハードルが高すぎるなと思います。魚を自分で捌けなければいけないわけではないんですけどね。切り身でもいいし、スーパーによってはお願いすれば全体をおろしてくれるので、そういうものを買ってきて、ぜひ私のレシピ本を見て料理してみてほしいです。火も使わずに魚が簡単に調理できちゃうので。魚料理を作るハードルを少しでも下げたいなという思いもあって、自分のレシピ本ではちょこっとでも魚料理を入れるようにしています。

――そんな裏テーマがあったとは(笑)。魚料理の啓蒙活動以外に、時短料理研究家として今後はどんな活動をしていきたいですか。

 やっぱり私が持っている時短術の知識やレシピの数々を形にしたレシピ本を今後もたくさん出していきたいです。そして、娘が独り立ちするときに、それらのレシピ本を持たせて送り出したいですね。娘は全く料理に興味がないんですが、これらを見て作れば、お家の味が出せるよって。

 これから独り立ちするという年代の子たちが料理に対する恐怖心みたいなものを抱いているという話も耳にします。インスタのフォロワーさんからも私のレシピ本を見て、「料理に対するハードルが下がった」「私でも料理ができると思えた」といった声をいただきました。昔ながらのやり方だけが料理じゃないし、現代ではいかに効率よく料理をするかも大切なことだと思うんですよね。時短かつ簡単にできるレシピをどんどん世に出していって、料理に対する不安を少しでも拭っていけたらいいなと思います。