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川田喜久治「Vortex」 退屈な様式を打ち破る異質さ

『Vortex』から

 分厚い写真集に収められたイメージはすべて作者のインスタグラムにアップされたものらしい。早速、川田さんのアカウントをフォローした。

 印刷された写真を、ページを繰るという単調な動作とともに、紙の感触や本の重量を感じながら鑑賞することは、13インチのノートパソコンの画面上で同じ画像を見るより経験として圧倒的だ。次々と押し寄せる画像が自分をのみ込む感じは、「渦」という意味のタイトルによくあらわれている。だが、川田さんの写真の美しさは、どちらかと言えば退屈な様式が確立されて久しいインスタグラムという媒体において群を抜いて異質で、ますます重要なメッセージを放っている気もする。

 昨年、刊行された『地図(マケット版)』も強いメッセージが静かに胸に迫る美しい本だ。色彩豊かな本作と併せてモノクロームのデビュー作を手にとると、かなり異なって見えた二つの世界に通底する、写真家のブレない背筋が浮かび上がってくる。=朝日新聞2022年9月3日掲載