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「がっこうにまにあわない」ほか子どもにオススメの3冊 続くドキドキ、一気に解放感

「がっこうにまにあわない」

 ぼくはゴウゴウと走り出す。いそがないと、がっこうにまにあわない。今日はどうしても遅れちゃいけない日なのに! 目の前には大きなみずたまり。歩道橋はぐにゃぐにゃだし、踏切を通り過ぎる列車はとんでもなく長い。いつもの道なのになんだかへん! あせりがとまらない男の子。果たして学校に間に合うの?

 朝起きて心臓がヒュッとなる。誰もが経験したことのある寝坊した時のいやーな感じ。焦れば焦るほど前に進まない気がしてもどかしい。絶対に遅れられない男の子のはやる気持ちが伝わってきて、こちらまでじっとりと汗が噴き出しそう。緊張が最高潮になった後におとずれる解放感が気持ちいい。ハラハラドキドキが一気に昇華する!ザ・キャビンカンパニー作・絵、あかね書房、1650円、小学校低学年から)【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】

「長い長い夜」

 「ぼく」は、雄カップルがあたためた卵からかえった子どものペンギン。一緒に旅をしているのは、角を狙う密猟者に家族も友だちも殺され、人間への復讐(ふくしゅう)を決意している地球最後のシロサイ。シロサイは、子どもペンギンに父親たちの話をしてやり、守り、一緒に戦禍を生き延びていく。生命や愛について、さまざまなことを感じさせ、考えさせてくれる。最近の韓国の作品は本づくりも内容も面白いのが多いが、異種交流のこの寓話(ぐうわ)もその一つ。世界のサイ5種は、実際にどれも絶滅の危機に瀕(ひん)している。ルリ作・絵、カン・バンファ訳、小学館、1540円、小学校高学年から翻訳家 さくまゆみこさん

「うちのおかあちゃん」

 おかあちゃんは三味線がうまい。声が大きい。「口ごたえ、すな」と叱る。目はほとんど見えないが地獄耳。なんでもよく知っている。ある朝、初めておかあちゃんが泣いた。まったく見えなくなったのだ。「ヘレン・ケラーになってしもうたわ」というおかあちゃんにおとうちゃんは、目も口も意地もわるい三重苦と突っ込む。作者の実母のエピソードと地元の岡山弁を盛り込んだ創作絵本。ダイナミックな絵には血が通い、ゆかいであたたかい家族の関係に自然と親しみがわき、笑顔になる。小手鞠るい作、こしだミカ絵、偕成社、1430円、5歳から絵本評論家・作家 広松由希子さん=朝日新聞2022年8月27日掲載