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「GE帝国盛衰史」書評 白日のものとなった凋落の内実

評者: 磯野真穂 / 朝⽇新聞掲載:2022年09月10日
GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか 著者:御立 英史 出版社:ダイヤモンド社 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784478115244
発売⽇: 2022/07/14
サイズ: 19cm/494p

「GE帝国盛衰史」 [著]トーマス・グリタ、テッド・マン

 ゼネラル・エレクトリック(GE)は、米国そのものであった。GEの拡大は米国の成長と共にあり、その歴史はエジソンまで遡(さかのぼ)る。
 社員になることは人生の当たりくじ、GEへの投資は負けない賭けを意味した。
 ところが2000年代に入ると、1株あたり2ドルあった配当は、セントの単位まで暴落、何千人もの社員が解雇された。ビル・ゲイツも注目した本書では、GE凋落(ちょうらく)の内実が語られる。
 工業製品を皮切りに、テレビ番組や保険も手掛ける超巨大コングロマリット(=複合企業)に成長したGEは、次第に金融業者のごとくなっていた。勝ち得た信頼を足場に企業売買を繰り返し、住宅ローンを販売した。金融部門は、GEの利益の半分を稼ぎ、9・11で抱えた巨額の負債、他部門の失敗を補塡(ほてん)した。
 加えて、法律違反すれすれの帳簿操作が繰り返された。ないはずの利益が計上され、表向きの輝きは保たれ続けた。
 しかし、リーマン・ショックなどで金融部門が打撃を受けると、その綻(ほころ)びがとうとう白日のものとなる。
 強大権力を持つボスの顔色をうかがい、イエスマンになる上層部。課せられた数字のためなら手段を厭(いと)わない社員たち。問題が発生しても責任の所在が追えなくなるほど巨大化、複雑化した組織。顧客に場当たり的な安心を与えるため、多用されるレトリック。苦境は気合で乗り切れと発破をかけるリーダー。
 読みながら、これは日本のことかと何度も疑った。しかしこれは太平洋の向こうの話なのだ。
 年を重ねると、正直であること、誠実であることの価値を疑ってしまうことがある。しかしGE凋落の顚末(てんまつ)を知ると、この二つは何かを存続させる上で、とても大切な姿勢のように思えてくる。だが、巨万の富を得て勝ち逃げするGE取締役たちの記述をみると、すぐさまその思いには、影が差してしまうのだ。
    ◇
Thomas Gryta 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙記者▽Ted Mann 同紙記者。