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図書館員・利用者双方に認識の変化を迫る「図書館の日本文化史」 田中大喜が選ぶ新書2点

『図書館の日本文化史』

 図書館はもっとも身近な公共施設の一つだが、その実態はよく知られていないのではないか。高山正也『図書館の日本文化史』(ちくま新書・1012円)は、日本の図書館史を紐解(ひもと)きつつ現代の図書館と司書職が抱える問題点を析出する。
 現代の図書館の役割は民主主義社会の主権者の育成にあるが、その多くは利用者のリクエストに応える「無料貸本屋」となり、司書職も書籍の貸し出し・返却手続きに従事する非専門職種と誤解されている現状を厳しく批判する。図書館員・利用者双方が図書館と司書職に対する認識を深めていくことが、現状の改善に不可欠と痛感させられる。
★高山正也 ちくま新書・1012円

『日本中世の民衆世界 西京神人(にしのきょうじにん)の千年』

 民衆は歴史を創り出す主体だが、時代が遡(さかのぼ)るほどその実態に迫るのは容易ではない。三枝(みえだ)暁子『日本中世の民衆世界 西京神人(にしのきょうじにん)の千年』(岩波新書・968円)は、豊富な史料と共同体が現存する希有(けう)な事例である、京都・北野天満宮領西京を拠点に麹(こうじ)業を展開した西京神人の中世から現代までの歴史を辿(たど)りつつ、中世民衆の姿と変遷を描き出す。
 西京神人は文字よりも口承や祭礼行事を通して自らの歴史を伝えてきた。著者はフィールドワークを通じてこれに触れ、適切な検証を施したうえで中世民衆像の復元に積極的に活用する。本書はフィールドワークの魅力をも語りかける。
★三枝(みえだ)暁子著 岩波新書・968円=朝日新聞2022年10月22日