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『記者がひもとく「少年」事件史』書評 曖昧な定義 社会の変容映す

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2022年11月26日
記者がひもとく「少年」事件史 少年がナイフを握るたび大人たちは理由を探す (岩波新書 新赤版) 著者:川名 壮志 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784004319412
発売⽇: 2022/09/24
サイズ: 18cm/227p

『記者がひもとく「少年」事件史』 [著]川名壮志

 著者は少年事件を20年近く取材してきた新聞記者。言ってみればこのジャンルのプロである。彼によれば、「少年」という存在の定義は「きわめて曖昧(あいまい)」であり「社会の描く『少年』観が、時代によって大きく変容している」という。大人と子どもの間で揺れ動くのが少年の常とは言え、法律も絡んでくる場面で揺れ動くのはまずい気が。だが、歴史を振りかえるとかなり揺れ動いているのである。
 たとえば、いまから60年以上前、少年法が本人とわかる報道(推知報道)を禁じていたにもかかわらず、紙面には思いきり犯罪少年の名前が載っていた。推知報道の禁止を破って実名報道をしても罰則がないとはいえ、少年保護の観点が弱すぎやしないか。
 1968年に永山則夫による連続射殺事件が起こると、少年の生育環境が注目されるように。犯罪少年たちは、家庭や社会の中で割を食ってきた弱者であると考えられるようになったのだ。しかしながら、凶悪事件の裏に必ず劣悪な家庭環境があるかと言えば、そうとも言い切れない。摑(つか)めそうで摑めない少年の心。それはやがて「キレる17歳」といった表現を生むに至った。
 家庭環境ではなく、少年自身の中に原因を探す方法として力を持つようになったのが精神鑑定である。97年の神戸連続児童殺傷事件では「裏技的な手段」として精神鑑定が用いられた。なぜ裏技かというと、まだ幼く刑罰を科せないことがわかっているのに、鑑定をしようとしたから。罰することより、真相解明することが重視された点が新しかったのだ。
 本書を読むと、大人たち(とメディア)が犯罪少年をどんな風に扱ってきたかがよくわかるわけだが、著者によれば、年を追うごとに少年事件への関心は退潮しているという。それは少年に関心を払わない社会の到来を予言するものであろう。著者の危機感を共有する意味でも、是非(ぜひ)とも本書を手に取ってもらいたい。
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かわな・そうじ 1975年生まれ。毎日新聞記者。著書に『密着 最高裁のしごと』『僕とぼく』など。