1950年代の都会的なコラージュが再評価される岡上淑子(おかのうえとしこ)(94)に関し、何度か文章を書いたことがある。P・K・ディックの『ヴァリス』文庫版表紙の「抽象的な籠」が知られる藤野一友(1928~80)に対しても、30年前にその幻想表現の湿度について記した。
一度見たら忘れ難い表現を示す両者が、実は10年ほど夫婦であったことを、福岡市美術館で開催中の2人展(来月9日まで)で初めて認識した。この本はその図録でもある。
岡上が「作風がどことなく似て」いたと話したように、ともにシュールレアリスムの系譜。雑誌のグラビアを切り貼りし、異化効果を見せる岡上作品は、顔のない姿に当時の女性の立場も思うが、正統派だろう。一方、やや古典的な女性像の藤野の表現は幻想絵画と呼ぶべきか。でも抜群の発想と描写力が日本の凡庸な幻想絵画とは一線を画している。
ともに手作業から生まれた卓越した作品。人生の一時期をともにした2人の表現が、欧州の潮流の受容の違いを示す点が感慨深い。=朝日新聞2022年12月3日掲載