ISBN: 9784791773930
発売⽇: 2022/09/26
サイズ: 19cm/377,2p
「人類学者がのぞいた北朝鮮」 [著]鄭炳浩
クリントンとレーガン。先に米大統領になったのはどちら? 正解はレーガン(1981~89年)。
2問目。金日成(キム・イルソン)と金正日(キム・ジョンイル)、先に北朝鮮の最高指導者になったのは? 正解は金日成(48~94年)。正日は日成に続く指導者であり、これに現在の正恩(ジョンウン)が続く。
1問目は即答で、2問目を迷った人は多いのではないか。実際私はそうだった。書評にあたり、家系図を傍(そば)に置いた程(ほど)である。
混乱の原因は似ている名前にある。しかしそれ以上に本質的な理由は関心がないことだ。私たちが「海外」という時、そこで想定されるのは欧米であって、アジア諸国ではない。そこに北朝鮮が入ることなどあり得ない。
日本上空に突然ミサイルを飛ばす困った国。大方の北朝鮮理解はこの程度なので、次のような問いは思いもつかない。国民が最高指導者を将軍様と崇(あが)め、百万を優に超える餓死者を出しても体制は崩壊しない。このような統治はどのように可能になったのか? 人々はそこでどう暮らしているのか?
人はパンのみに生きるにあらず。この言葉が何度も頭をよぎる。将軍様を崇める物語が精緻(せいち)に張り巡らされ、それが飢えと寒さに耐える力となる。支援物資の豆乳は、将軍様からの贈り物だ。でも同時に、大飢饉(ききん)の際に生まれた闇取引などの非公式経済が、その物語と繫(つな)がりつつも風穴を開ける。パンを得るために蠢(うごめ)いた人々の底力だ。
慢性的な栄養不足による発育不全で16歳/132センチのような若者がいる国で、「背伸ばし運動」が奨励されるといった記述は心が痛む。しかし、韓国の競争社会に嘆息し、北朝鮮の人たちは苦難の中でも笑い合って生きていたと語る脱北青年の言葉をどう捉えるべきなのか。北朝鮮の人々と関わり続ける著者は、憐憫(れんびん)の優越感に「民主主義国家」の読者が溺れることを決して許さない。
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チョン・ビョンホ 1955年、ソウル生まれ。漢陽大名誉教授。専門は文化変動論、実践人類学。