1. HOME
  2. コラム
  3. BLことはじめ
  4. BL担当書店員が選ぶ「マイベストBL 2022」

BL担当書店員が選ぶ「マイベストBL 2022」

「テーブルだんっ」必見のラブ・ダイアリー(井上將利)

 え、2022年のマイベスト? まじか、今年もおしまいか~早いな~。

 今年もたくさんの作品が世に送り出されましたね。皆さんも素敵なBLライフを過ごせたでしょうか。さて私のマイベストはというと例によって悩みに悩んだ訳ですが、11月にこの作品が登場して迷いなく心を決めることができました。スカーレット・ベリ子さんの「保坂さんと三好くん」(新書館)です。

 あの2人の行く末が拝めるのか……! と歓喜しました。そう本作は同じくベリ子さんの大人気作「ジャッカス!」の続編となる作品です(未読の方は是非こっちから読んでください!)

 「ジャッカス!」では篠・原コンビがメインでしたが、本作は2人の一学年下の三好とデザイナーの保坂さんのお話となります。前作で三好は同級生の克己に抱いていた好意を自覚し最後には想いを告げると同時に、克己と保健医・荒巻の間を繋ぎ止めるキューピッドとなり自ら玉砕を選んだ愛すべきお人好し(このシーンは井上、泣きました……)。そして保坂さんは、当時克己のバイト先だった事務所のデザイナーであり、克己にちょっかいを出していた三好と出会いました。そのときから三好のことがお気に入りで、自分がゲイだと自覚した三好に寄り添う大人の一面も見せていました(ちなみに本作では三好⇒19歳、保坂⇒39歳のはずです)。

 さて、前置きがとっても長くなりましたが、ここから本作が始まります。時は進んで受験生となった三好。保坂さんに勉強に付き合ってもらうなど順調に距離を縮めていましたが、クリスマスに「一緒に住まないか?」と急にプロポーズ(?)されて取り乱してしまい、一方的に連絡を絶ってしまいました。そこからさらに8カ月が経ち……(三好は浪人しました笑)、色々とあって三好は保坂さんの自宅に侵入&PCに細工をし、生活を盗撮するという日々がスタート。え、なんでそうなる⁉️とツッコミを入れたいところですが、前作からかなりの拗らせを披露した三好ですから、そこは置いときましょう(笑)。しかしあんなに尖ってた三好がすごい丸くなってて感動です。しかも保坂さんのアプローチにキュンとする三好が可愛いのなんのって、彼のポテンシャル半端ないです。ちなみに本作には克己たちも少し登場するのですが、久々の克己&三好のやり取りも懐かしくて堪りません(克己は相変わらず最高にイケてます)。

 さて、三好は盗撮を続ける中で保坂さんに強く愛されていることを知るのですが、一方でその想いに応えられるだけの自信が自分に無いことを思い悩んでいきます。そんな迷える三好を全て受け止める保坂さんの大人の包容力は流石……ですが、そんな彼も我慢できずに超積極アプローチしちゃう辺りは可愛いですよね。「壁ドン」ならぬ「テーブルだんっ」は必見!

「保坂さんと三好くん」上巻より ©️スカーレット・ベリ子/新書館

 真剣故に色々なことを考えてしまう三好の気持ちは読者の皆さんにも刺さるはず。そして保坂さんの力強い愛情がビシビシ伝わってくるので早く幸せになってくれ! と、もどかしい気持ちになります。まだまだ魅力は語り足りないですが、これは本当に読んで楽しんで頂きたい作品です。懐かしくも新しい発見に出会えそうな、素晴らしいラブ・ダイアリーを是非!

地球滅亡までの時限の恋!?(原周平)

 今年も数多くの作品と出会うことができました。マイベスト、1つを選ぶのは毎年悩むテーマですが(笑)、BLとしてはもちろん、エンターテインメント的にもとても楽しく読ませてもらった作品を紹介させていただこうと思います!

 丸木戸マキさん「僕らのミクロな終末」(祥伝社)

 10日後に巨大隕石が地球に飛来して世界は終わる……。人生を悲観している主人公・真澄が突然飛び込んできたこのニュースに驚く、20XX年5月11日の朝から物語は始まります。冒頭からのインパクトがすごいです! 残りの時間が決まっているなか、どんなストーリーが展開されるかワクワクしました。

 最後の10日間の過ごし方を模索する中、真澄は一番会いたくなかった元恋人(になりきれなかった)・律と再会してしまいます。律からトラウマになるくらいの傷を与えられた真澄。それでも嫌々ながらも律の頼みを聞くことになり、2人は地球が終わろうとしているときに再び一緒の時間を過ごすことになるのです。インフラが止まりだしたり、ぼったくり価格で宿泊させる宿が出てきたり、身を投げる人がいたり……刻々と終わりに向かっている世界がハラハラ感を盛り上げる中で、描かれる時限の恋。学生の頃も振り返りながら、大人になった2人が今をどう感じているのか、10日間という時間で丁寧に描かれていくのが切なさもあり、激しい感情のぶつけ合いもあり、真澄と律の表情も読んでいる側の心をとっても揺さぶります。

「僕らのミクロな終末」下巻より ©丸木戸マキ/祥伝社 on BLUE comic

 正直、律は真澄に対して昔かなり酷い仕打ちをしていましたが、上下巻と物語が進んでいくうちに、彼がどんな風に思っていたか明らかになっていって、真澄もそれを受け止めて赦していくのを、終わりに向かう世界が後押ししてくれたのかな、と思います。忘れられない初恋の人と結ばれて良かった、よね。

 そして、この作品ではサブキャラクターがとても重要なポジションなところも、面白い要素の1つだと思います。死にたがっていた高校生・遊馬、アイドルの姉を亡くした女装男子・めぐるも加わり、ある人物を中心に偶然ではなかったような関係性が見えてくるんです。2人ともとても魅力的でありながら、“死”が身近にあるところがこの物語により深みを与えてくれているように感じます。

 さらに、大事なネタバレになってしまうので詳しく書けませんが、とあるキャラクターにそんな意外性が……!という驚きが待っていて、結末も想像していない展開でした。すべてを明らかにせずに読み手に委ねられている部分もあるので、捉え方も人それぞれになりそうで面白いですね。ラストのワンシーンもとっても綺麗で心に残るので是非見ていただきたいです……!

 現代をベースにしたラブストーリーに、ほどよいSFが加わって混ざって、2人の恋物語を追いつつも、+αの要素もすごく楽しめました! なんと2023年1月には実写ドラマ化されるとのことで、原作と見比べてみるのも面白そうです。