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「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」書評 「にわか○○」で見えてくる世界

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2023年01月21日
ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた 著者:斎藤 幸平 出版社:KADOKAWA ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784044007157
発売⽇: 2022/11/02
サイズ: 19cm/220p

うちに閉じこもらずに、他者に出会うことが、「想像力欠乏症」を治すための方法である−。統計やデータからは見えない、現場の「声」から未来を考える。『毎日新聞』掲載に書き下ろし…

「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」 [著]斎藤幸平

 著者は『人新世の「資本論」』が話題となった研究者。「学者は現場を知らない」といった世間の言葉にうっすら傷つきながらも、しっかりと受け止め、「理論の重要性を信じ、理論と実践とは対立しないと考えるからこそ、私の方がもっと実践から学ばなければいけない」との思いを胸に、日本全国のさまざまな現場へと出かけている。
 「現場」といってもいろいろあって、ウーバーイーツの配達員をやることもあれば、シカの解体を手伝うこともある。個人的には京大の熊野寮に出向いてタテカンを作る回がおもしろかった。大学の先生でもある著者が大学に排除されるものを作ってるのがいい!
 著者のような研究者・大学教員は、狭く深くの専門性を求められがちだが、本書では敢(あ)えてその逆を行っている。広く浅くの網羅性で、この国の諸問題に触れるのだ。
 ただ、著者自身も自覚するように、研究者であり大学教員であることの特権性については、十分に注意を払わなければならない。特権階級の物見遊山になってしまっては意味がないからだ。その意味で本書は、「偉い人」の座から降りると決めた人間に何ができるのかについての記録でもある。
 本書を読んでいる間、ずっと考えていたことがある。この国には「にわか」という言葉があって、何かを知って日が浅い人を低く見る風潮が支配的だけれど、本当にそれでいいんだろうかと。にわかとして現場と繫(つな)がることで、見えてくる世界はあるのではないだろうか。この国のにわかアレルギーを緩和する効果も本書に期待したい。
 タイトルからしてそうだが、本書に似た趣向の本のひとつにジェームズ・ブラッドワースの『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』がある。こちらの舞台は英国で、「最底辺」と言われるような労働の現場が出てくる。本書に興味を持たれた方には、併読をおすすめしたい。
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さいとう・こうへい 1987年生まれ。東京大准教授(経済思想、社会思想)。著書に『人新世の「資本論」』。