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「流されて生きる生き物たちの生存戦略」書評 驚かされる環境に適応した進化

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2023年01月28日
流されて生きる生き物たちの生存戦略 驚きの渓流生態系 著者:吉村 真由美 出版社:築地書館 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784806716440
発売⽇: 2022/11/26
サイズ: 19cm/225p 図版16p

「流されて生きる生き物たちの生存戦略」 [著]吉村真由美

 山間の盆地で育ったから、渓流には魚以外にも昆虫をはじめ多くの生き物が棲(す)んでいるのは知っていた。けれども川の流れは常に変化しており「一日として同じ状態の川はない」。まさしく鴨長明『方丈記』の書き出しだ。まして嵐や豪雨となれば増水し激流となる。渓流の生き物たちがどんなふうに工夫して日々をしのぎ、暮らしているのか。本書を読むまで考えたこともなかった。そこには驚きの「生存戦略」があった。
 潜ったり、張り付いたり、あえて流されたり。そもそもからだのデザインからして環境に適応して進化している。「流されて生きる」というのは人間の世界ではどちらかといえば消極的に捉えられている。水生生物の世界ではそれが最大限に積極的な意味を持っている。こうした発見は石をひっくり返すなど渓流の局所に目を向けないと見えてこない。いわばミクロな視点だ。しかし実はそこにこそ地球の全体に通じるマクロな活動が凝縮されている。