街で見かける派手な装飾のトラック、通称デコトラ。「トラック魂」は、デコトラの魅力をどこまでも追求する月刊誌だ。最新号の特集は「最新飾り方指南塾」。トラック業界の人材不足についてとか、流通のこれからとか、ビジネス関連の話はほぼなし。そんなことより重要なのは、いかにかっこよくデコレーションするかである。
「いま、本当にイケてるスタイルとは?」と言葉遣いはなんだか軽いけれども、まず語られるのは美学だ。「現代のデコトラ界ではマンネリ化の波が押し寄せている。自分のために飾るのではなく、他人にウケることを重視する人が増えた」、個性を失ったデコトラ界に明るい未来は訪れないと嘆き、「デコトラ本来の在り方と、飾り方について考察してみたい」と宣言する。
デコトラの飾り方にも時代のモードがあるようだ。
地方ごとの特色もあり、東北地方や神戸・淡路島の飾り方、さらに関東風アートと呼ばれるスタイルが広く愛されているという。
誌面はのっけからバッキバキに装飾されたトラックの写真が続く。コメントに出てくる用語が部外者には難解だ。「ビッグなラッセル戻しと角オコシのミラーステー」とは何のことだろうか。他にもメーターアオリ、角目4灯、バスマークアンドン、舟型バンパーなどなど説明を読んでも写真のどこを見ていいのか目が泳ぐばかりである。
それだけこの世界が深化している証拠だと思うが、驚いたのは「男の仕事場」という記事に出てくる運転席の内装写真。シートから天井からハンドルまですべて赤い新格子柄で埋め尽くされ、シャンデリアまでついていた。
装飾には言葉も大切なようで、「由加丸」「愛乱丸」など愛車のニックネームを掲げたり、「愛に生きます私の人生」「硬派一筋」「北国浪漫」などの文字で車体を彩ったりする。
こんなに飾り立てて重くならないかとか、ガードを潜るとき引っかからないかとか、風の抵抗とか燃費とか、いろいろ気になるけれど、そんな神経質な話はどこにも書いていない。
誌面全体を通して伝わってくるのは熱だ。あるいは愛といってもいい。写真はほとんどカラーだし、記事は多いし、これだけ濃密な雑誌を月刊で出し続けていること自体、作り手の情熱なしでは不可能だろう。
はじめのうちはトラックを飾る面白さがピンとこなかったが、ふと、インドでもド派手なトラックがたくさん走っていたのを思い出し、これは人類共通の感性なのだと考え直した。もっといえばクリスマスのイルミネーションなんかも、かけ離れているようで根っこは同じなのかもしれない。とにかくコテコテに飾りたい。飾ること、それはすなわち生きざまなのであった。=朝日新聞2023年2月4日掲載