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『「老いない」動物がヒトの未来を変える』書評 独自の指標から長寿の能力探る 

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2023年02月11日
「老いない」動物がヒトの未来を変える 著者:スティーヴン・N・オースタッド 出版社:原書房 ジャンル:動物学

ISBN: 9784562072378
発売⽇: 2022/12/13
サイズ: 19cm/381,15p

『「老いない」動物がヒトの未来を変える』 [著]スティーヴン・N・オースタッド

 学生時代に海で捕まえたウニを受精させ、発生の過程をつぶさに観察する授業があった。1泊2日の楽しい思い出ではあるが、ウニがひょっとすると200歳まで成長を続け、あまり老化もしないと知っていれば、もっと刺激に満ちた実験になっていたはずだ。(もっとも食べられてしまえばその能力は発揮できないわけだが……)
 ネズミ、イヌ、ヒトを比べてもわかるように体が大きい方が長生きなのは何となくわかる。大きいと捕食されにくく代謝の効率にも有利に働くが、必ずしも長生きするとは限らない。
 何が真に長寿の能力を備えた生物なのか。著者は体のサイズを考慮に入れた「長寿指数」という独自の指標で比較を試みる。
 オウムやコウモリはヒトより寿命は長くはないが、長寿指数は概して高い。彼らを研究すればヒトにはない老化やがんを防ぐ仕組みがみつかるかもしれない。
 ただ、幸か不幸かヒトの長寿指数はすでにかなり高い。対照的に極端に低いのがマウスだ。成長や老化が早いからこそ実験に使えば結果がすぐに得られる利点がある。だが、もともと短命で病気になりやすいマウスに効果のある薬をいくら見つけたところでヒトに効く可能性は低いはずだ――こんな著者の指摘はまさに現実とも合致する。
 自然界には100年を超えて生きる種もいくつかいて、ひたすらスローに省エネで暮らすというのが基本戦略のようだ。むろん彼らの年齢を判定するのは容易ではなく、200歳のウニも推定に過ぎない。
 読めば進化やゲノムが意味するところへの理解も深まり、生物の授業に使えばきっと面白いだろう。
 訳者あとがきによれば、著者は英文学を専攻した後、タクシー運転手や新聞記者を経て、ハリウッドで動物の調教に携わって生物学に目覚めたという。その異色の経歴もまた、ちりばめられた話題やエピソードに彩りを添えている。
    ◇
Steven N.Austad 1946年生まれ。米アラバマ大教授(長寿・老化研究)。著書に『老化はなぜ起こるか』。