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「起死回生 東スポ餃子の奇跡」書評 目指す先は新聞も出す総合商社

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2023年02月11日
起死回生東スポ餃子の奇跡 著者:岡田 五知信 出版社:エムディエヌコーポレーション ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784295204558
発売⽇: 2022/11/28
サイズ: 19cm/223p

「起死回生 東スポ餃子の奇跡」 [著]岡田五知信

 本紙を含めて新聞雑誌の退潮は著しく、時として揶揄(やゆ)の対象ともなっている。その陰に隠れて、一足早く廃刊の瀬戸際に立たされているのがスポーツ新聞・夕刊紙である。本書は、その代表格たる東京スポーツ新聞が起死回生の一策として挑んだ「餃子(ギョーザ)」販売の顚末(てんまつ)を、3人のキーパーソンへのインタビューを通じてまとめたものである。
 プロレスの東スポ、競馬の東スポ、そして飛ばしの東スポとして、通勤帰りのお父さんにひそかな楽しみを提供してきた東スポだが、すでに2000年代には経営危機が囁(ささや)かれていた。そこへコロナ禍での駅売りの減少が直撃し、40代後半から50代の社員の実に半数が会社を去るという大規模なリストラに至った。
 もちろん、会社はただ手をこまねいていたわけではない。デジタル配信への進出、好調コンテンツの競馬モノへの傾斜、人事課の創設に象徴される社内改革など、コンサルタントが考えそうな手は尽くした感はある。残念ながら多くは不発に終わったようだが、そこで起死回生の一手となったのが餃子の販売だった。宇都宮の大和フーズとのコラボで青森県産のニンニクを多めに仕込んだ「東スポ(ニンニクマシマシ)餃子」は、テレビ番組などで取り上げられるなど、目下販売好調である。
 ただその事業展開の内実は、少数の社員の一途な馬力で押し通すという経緯を辿(たど)ったようだ。冗談のようにみえる東スポと餃子の組み合わせとは好対照に、販売戦略や製品のつくりこみに茶化(ちゃか)しはまったくない。「あえて誤解を恐れずにいうなら、東スポは新聞社ではない。新聞も発行する総合商社に生まれ変わらなければならない」という当事者のセリフが、評者には重く響いた。読後反芻(はんすう)すると、結局本書は、エンターテインメントと表裏一体だったという日本のジャーナリズムの側面のひとつと、それゆえの苦境を語っているように思えたからだ。
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おかだ・さちのぶ 週刊誌記者を経て在京テレビ局入社。特番などのプロデューサーを務め配信系事業の担当に。