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丹念な検討に基づき具体的に説明「古代豪族 大神氏」 田中大喜が選ぶ新書2点 

『古代豪族 大神氏 ヤマト王権と三輪山祭祀(さいし)』

 日本で最初の疫病を鎮めたと伝えられる人物を祖先に持つ大神(おおみわ)氏。鈴木正信『古代豪族 大神氏 ヤマト王権と三輪山祭祀(さいし)』(ちくま新書・1034円)は、先行研究と文献・考古両資料を丹念に検討しながらその実態を明らかにする。

 文献において、大神氏は三輪山での国家祭祀の執行を職掌として台頭するも、中央豪族間の勢力争いのなかで衰退した様子が看取されるが、こうした大神氏の盛衰は三輪山周辺の祭祀遺物の出土傾向と一致するとの指摘は興味深い。伴造(とものみやつこ)制・部民(べみん)制・国造(くにのみやつこ)制など古代国家の地方支配制度は複雑だが、大神氏を事例に具体的に説明する点も特筆される。
★鈴木正信著 ちくま新書・1034円

『装飾古墳の謎』

 大神氏が活躍した時代は古墳が造営された時代でもあった。河野一隆『装飾古墳の謎』(文春新書・1595円)は、そのなかでも横穴系埋葬施設の内部や外部に彩色などの装飾技法によって図文を表現した装飾古墳の実像に迫る。

 装飾古墳がその地域に築かれるか否かは、死者を飾るか隠すかといった死生観の違いに根ざすと説き、装飾古墳をローカルな古墳文化と見なす見解を明快に退ける。加えて装飾古墳を、墓に絵を描くという人間に生来備わった表現行為の一つと捉えて世界各地の装飾墓と比較し、壮大な研究フィールドへと我々を誘う。
★河野一隆著 文春新書・1595円=朝日新聞2023年2月18日