第一線で活躍する美術家が、そのルーツを語り下ろす『美術家たちの学生時代』。登場するのは舟越桂(かつら)、塩田千春、千住博、永山裕子、小谷元彦、町田久美、堀江栞(しおり)、諏訪敦、池永康晟(やすなり)、山口晃という、個性豊かな10人だ。
インタビュアーの功刀(くぬぎ)知子は、雑誌の仕事などで約30年美術業界と関わる編集者・ライターで、その信頼感からか美術家たちも滑らかに過去を語っている。インタビューを通して功刀は、なぜ制作を始めたのかという「『動機』こそが、作品にリアリティをもたらす作品の核」と思うに至ったという。
自らの表現に悩んだり、学生ならではの恥ずかしいような体験をしたり。美術家たちの生き生きとした語りは、本格的な制作活動に一歩を踏み出す前夜の追想にとどまらない。「美術家にとっての誠実とは自分の執着に嘘(うそ)をつかないこと、あるいは嘘をつききる覚悟を持つこと」(池永)、「抑えるべきは惰性的な部分であって、止(や)むに止まれぬ欲動の部分は抑えちゃいけない」(山口)など、芸術論や制作論まで踏み込んでいく。
美術家にとって、語ること(あるいは意識的に語らないこと)も表現の一部。そんな読みの可能性も開いている。(木村尚貴)=朝日新聞2023年2月18日掲載