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名手・泡坂妻夫の色褪せない魅力を感じる「ダイヤル7をまわす時」 村上貴史が薦める新刊文庫3点

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『ダイヤル7をまわす時』 泡坂妻夫著 創元推理文庫 968円
  2. 『幽世(かくりよ)の薬剤師3』 紺野天龍著 新潮文庫nex 737円
  3. 『友が消えた夏 終わらない探偵物語』 門前典之著 光文社文庫 902円

 1933年に生まれ、76年に日本ミステリ界にその姿を現し、日本推理作家協会賞や直木賞などを受賞した後、2009年に没した泡坂妻夫。(1)は彼が85年に発表した短篇(たんぺん)集だ。元刑事が語り手となる犯人当て、貴重なトランプに飾られた死体の謎、同じ名前に惹(ひ)かれ続ける女性、アトリエの主が殺された事件など、様々な謎をめぐる常識を一段も二段も超越した論理展開に魅了される。全7篇の幕切れにおいて、思わぬ角度からコツンとやられるのだ。その洒落(しゃれ)た衝撃は、いまだに色褪(あ)せていない。

 (2)は、現代とはわずかに位相がずれ、様々な怪異が存在する〈幽世〉を舞台に、この世界に来て3カ月という漢方薬剤師が活躍するシリーズの第3弾だ。本作は、悪魔祓(ばら)いと錬金術師の奇蹟(きせき)を扱った中篇2本から成る。いずれも(泡坂作品がもたらすような)論理の妙味を愉(たの)しめるのだが、特に前者が素晴らしい。悪魔祓いという行為の背後に、こんな想(おも)いが秘められていたとは。幽世の論理や薬剤知識も織り込んだ推理の連鎖にブンブンと振り回され、その上で整然と着地させられる快感がある。

 (3)では、大学の劇団員たちが陸の孤島と化した合宿所で次々と殺された事件の記録を入手した探偵が、密室殺人などの真相を推理する。この事件の展開と謎解きがまず愉しいのだが、本書ではさらに、タクシーの女性客が拉致される別の物語が並走していて、それがどう合流するかも興味深い。多様なトリックをいくつも重ね合わせた濃厚な味わいを堪能。=朝日新聞2023年3月4日掲載