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太平洋戦争下での異文化の尊重を問う「ビルマに見た夢」 谷津矢車が薦める新刊文庫3点

谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『ビルマに見た夢』 古処誠二著 双葉文庫 770円
  2. 『女だてら』 諸田玲子著 角川文庫 880円
  3. 『天保十四年のキャリーオーバー』 五十嵐貴久著 PHP文芸文庫 990円

 今回は「ミステリ、サスペンス的な世界観を有した広義の歴史時代小説」で選書。

 太平洋戦争の最中、ビルマ(現・ミャンマー)に駐留する日本軍軍人、西隈と現地の人との交流の日々を描く(1)は、文明の論理を振りかざす先進国と、文明と異なる世界観の中で生きる人々の軋轢(あつれき)と“妥結”を描く連作短編集。ミステリ的な物語構成や道具立てを用いて物語を展開させつつ、異文化との間にある溝、付き合い方、尊重の仕方という現代にも通じるテーマを読者に投げかける。

 江戸後期に実在した女性漢詩人、原采蘋(はらさいひん)を主人公にした(2)は、彼女の年譜の中で事実関係が判明していない時期に着目、そこに秋月黒田家お家騒動を噛(か)ませて展開する時代サスペンス作品。男装した上で密命を果たそうとする原采蘋=みちの前に立ちはだかる敵、幾度となくやってくる危機、出会いと別れ。ジェットコースター的な展開が最終的に史実に回収されていく様は実に鮮やか。男装の麗人、みちの活躍にご期待いただきたい。

 時は天保、鳥居耀蔵の手によって江戸所払いを受けた市川團十郎と、同じく養父が陥れられた鶴松が出会い、鳥居が秘密裏に開く違法富くじを逆手にとって復讐(ふくしゅう)せんとする(3)は、復讐する側とされる側の化かし合いを描くコンゲームサスペンス。ラスト近辺、怒濤(どとう)の如(ごと)く二転三転する情勢の変転は読んでいて手に汗握る。警世的な内容を含みつつ、娯楽作品の規矩(きく)で口当たりよくコーティングされた時代小説。=朝日新聞2023年3月18日掲載