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懐かしそうで新しい 柴崎友香

 この連載が始まる少し前には、ファッション面でのエッセイを書いていた。その時期に、「スパッツ」がいつの間にか「レギンス」という名前に変わっていることについて書いたら、学習参考書かなにかに掲載された。関心のある人が多い話題なんだなと思ったあれから15年ほど経つだろうか。

 半世紀近く生きているとファッションの流行も何周目かの目撃者になるわけだが、昨年の夏頃、通販サイトを見ていてカーゴパンツを見つけたときには、「あんた、生きとったんか!」と生き別れた人に再会した気持ちで声を上げそうになった。

 膝(ひざ)の外側についた大きなポケットが特徴の、裾が絞られたワークパンツ。二十代のころに私もよく穿(は)いていたが、「新作」として見るのはどれくらいぶりだろうか。また流行(はや)るのか、と思いつつ、螺旋(らせん)階段のように巡ってくるファッションアイテム、同じようでいて前回とはちょっと違うのが曲者である。今回のカーゴパンツは、幅がかなり太い。そして、下のほうにボリュームがある。なんか見たことあるこの感じ……、えーっと、「ボンタン」?

 それはさらにさかのぼった時代の、学生服の変形ズボンの呼び名である。検索してみると、「ボンタン」は上のほうは太いが裾はきゅっとすぼまったもので、私が思い浮かべたのはどうやら「ドカン」であるらしいと判明した。ああ、「ツッパリHigh School Rock’n Roll」の歌い出しのあれね、という説明が現在何割くらいの人に通じるか心許(もと)ないが、ともかくも、前回流行ったカーゴパンツとそのまま同じではないところがおもしろいなーと思う。

 流行は不思議だ。流行って、おしゃれに見えたものほど時間が経つと時代を感じて古く見え、それが再び新鮮に映りもする。モノは変わっていないのに、私たちの目のほうが変わってしまう。と、以前のファッションのエッセイでも書いたのだが、何周目かを観測して、ますます楽しい謎である。=朝日新聞2023年3月29日掲載