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「山崎怜奈の言葉のおすそわけ」インタビュー 独立・コロナ禍…無我夢中で駆け抜けた1年半の喜怒哀楽

山崎怜奈さん=篠塚ようこ撮影

「新しい世界が始まるぞ」

――「Hanako Web」での人気連載をまとめた1冊ですが、そもそも連載をしようと思われたきっかけはなんですか?

 2021年2月に1冊目の著書『歴史のじかん』 (幻冬舎)を発売したのですが、そのときに初めて自分でコラムを書いて楽しかったので、また書く機会があればと思っていました。私はラジオで言葉を使うお仕事をさせていただいていて、毎日ラジオパーソナリティーとして話していても話しそびれることがあったり、さすがに公共の電波に乗せるのはいかがなものだろうかと話すことを躊躇することがあったり(笑)。

 でも、話さないともったいないような面白いことや、誰かに話さないとやっていけないと思うことが自分の中で消化不良のままだったので、エッセイとして世に出してみたいと考えるようになって。1冊目の著書を作る際に関わってくださった当時のマネージャーさんに相談して、事務所に企画書を出しました。

――すごいバイタリティーです。

 いえいえ。もともと歴史番組の収録で出会ったライターさんに企画書の書き方を教わって、というところから始まった連載なので、自分の原動力が形になった瞬間の一つにまた立ち会うことができたと感じました。実際に連載が始まって、「新しい世界が始まるぞ」とワクワクしたことを覚えています。

――今回、連載が書籍化されましたね。

 ウェブで自分が書いた文章を読んでいるときと、紙になった本を読んだときの印象が全然違いました。本として紙に印字された文字からは“人が書いたもの”という温度感が伝わりやすいのかなと、すごく不思議な感覚でしたね。写真も紙に印刷されると、より写真の温もりが前面に表れていて、すごく好きな1冊になりました。

自分を大事にできないと、人を大事にできない

――エッセイは2021年8月から2022年12月までの1年4カ月を収録しています。この期間は世の中もコロナ禍など大きな変化のあった時期ですが、山崎さんご自身にとってはどんな変化があったと思いますか。

 以前と比べて、自分で自分のことを大事にできるようになってきたかなと思います。今まではわりと無茶をしていた時期も多かったんですが、その度に精神的にも体力的にも削がれるんですよね 。でも、もう無理はしないことを第一のモットーにして生きていくようにして。自分のことを大事にできていないと、人のことを大事にできるキャパがないので、それができるようになったのはけっこう大きな変化だったと思いますね。

 この1年4カ月は、死に物狂いで駆け抜けた期間でもあって、この連載がなかったら記憶を飛ばしているんじゃないかというぐらいバタバタだったんです。今思うと、自分の人生の中でも大事な節目がすごくたくさんあった期間だったと思いますね。ラジオの帯番組が1年目の時代からエッセイを書いていて、グループに在籍していたときの活動と辞めるときの経緯も書いていて。独立してからの話も、新型コロナウイルスに罹患したときの話も、1人旅にハマった時の話も書いているので、今の自分を構成するきっかけになった瞬間がいっぱい書かれています。

――連載の第1回「自分サイズの言葉たち」で「職業柄、ダンスと歌は必要だからやり始めた。一方で、必要とされなくてもやっていたのが、ノートに書くことと、ラジオを聴くことだった」と綴られていますが、いつ頃から思いをノートに書くようになったのでしょうか。

 もともと日記を書く習慣があったので、けっこう前からですね。ただ、自分の日記と、人に見せる文章は少し感覚が違うんです。人に読んでいただく文章を書くようになったのは、グループに入ってブログを始めたぐらいからですね。読みやすさや構成といった細かいところが気になるようになりましたし、そこで初めて人に読んでもらう文章の作り方を考えるようになりました。

――「おわりに」では「書くことが自分にとってセラピーになる」と書いていらっしゃいますね。

 そうですね。書くことは自分の思考を整理整頓することと、誰かに言わずにはいられないちょっとどろっとした感情と、その真逆で絶対に伝えたい感謝や記憶を文章にすることだと思っています。それは嘘なく書き連ねるしかない。そういう感情を書くときは正直じゃないと書けないので、自ずと取り繕わなくなりました。

――潔いですね。

 潔く生きています、我ながら。あまり過去に執着がないんですよ。「はじめに」でも書いていますが、苦しかったことも覚えていなくて、覚えていても無駄だから忘れようとしているんですよね。読み返してみると、こんなことで悩んでたんだ、と思えるんですが、それは自分が成長している証だから、気づけてよかったなって思いました。

好きなものをぶれずに持つ大人になりたい

――書籍のオリジナル企画として、パンサー向井慧さん、三谷幸喜さんと対談されています。

 この1年4カ月の間、支えてくださったり、新しい刺激をくださったりというおふたりです。おこがましいですが、自分の思うまま正直にお話しさせていただくことができる、信頼できる大人。そんな大好きな人生の先輩ふたりと、赤裸々にとくにテーマもなくしゃべりたいことをしゃべっていて。貴重なお時間をいただけて、光栄でした。

――向井さんとはラジオという共通点があって、ラジオのブースで台本無しで2時間対談していますね。

 まだいけそうでしたけど(笑)。対談が終わったあとに、「よく2時間もしゃべることがあるね」と人に言われて、「もう2時間も経ってた!?」と思ったら、確かに日が暮れていました。

――三谷さんとは以前からのご縁なんですよね。

 三谷さんが手がけたミュージカル「日本の歴史」のパンフレットの対談オファーをいただいてからのご縁です。三谷さんが脚本を担当された大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送中にラジオに出ていただく機会がありましたし、「感想を聞かせてほしい」と言ってくださったので感想と質問を提出するラリーがありました。三谷さんのように好きなものをブレずに持っている大人になりたいと思いますし、憧れの方です。

 三谷さんとは稽古場で対談させていただきましたが、思いっきりジャージに青いスリッパで来てくださって、その肩の力が抜けた感じが逆によかったのかなと(笑)。年齢や立場も関係なく、こんな若者にも話してくれる三谷さんって、本当に素敵な方です。

――連載が1冊の本にまとまりましたが、本のイメージを伝えるとすると?

 向井さんが「この本は山崎怜奈のプラモデルを作るような本」だとおっしゃっていて。外見はHanakoチームの皆さんのプロの力によって、爽やかに可愛く仕上げてもらった穏やかな写真があって。内面は、家でひとり、午前2時頃にエッセイを書いているので、回によってそのときどきのテンションの波がすごいんですよ(笑)。

 でも、人間って誰しも波がありますし、人には喜怒哀楽を表せなかったとしても、文章になるとすごく正直になる。それが私にとってすごく発散になっているので、その波を肯定できる1冊にはなっているはず。何かに悩んだときやぶつかったときに、そこから一歩乗り越えるヒントがこの本の中にあったらいいなと思って書きました。

「サインほしい」と言ってください!

――今回、ファンの方にお渡しする著書に、サインを1200冊書かれたそうですね。

 グループ在籍時の経験が活きたのか、予定の終了時間より2時間巻きでサインを書き終わりました(笑)。発売日に書店巡りをした際、サイン本が即完したと聞いて追加で書かせていただいたんですが、時間が許す限り、もうちょっと書けばよかったなって思っているぐらいです。

 書店巡りの時に、この私の本を立ち読みしていて買うかどうか検討している方に偶然お会いして、すごくうれしかったんですよね。だから、「レジに通してきたらサイン書くからね!」と急かして買ってきてもらったので、もしもそういうことがあったらいつでも声をかけてほしいです。書店が好きでこっそりのぞきにいくと思うので、見かけた時は「サインください」と言ってください……と、著者自ら言いますね(笑)。

――頼もしいです(笑)。書店といえば、これまでに読んだ本で、印象的だった本はありますか。

 堀井美香さんの『一旦、退社。 50歳からの独立日記』(大和書房)というエッセイは印象的でした。私の話も書いていただいたんですが、堀井さんは私にとっては友人のお母様なので、ご縁があって。でもそういうフィルターを抜きにして、ひとりの女性として、人生の先輩として、堀井さんの本を読みました。堀井さんは「本当にいい人だよね」とまわりに言われるような人で、そういう人がどうやって作られているのかが本の中に表れていて。素敵な人に出会えて、私はラッキーだなって思いました。

――書店巡りをしていて、山崎さんのエッセイを買おうか迷っている方に遭遇されたお話をされていましたが、実際に書店に行かれて、ご自身の本以外で目につくものは?

 歴史小説家の今村翔吾先生と「今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて」というラジオ番組をご一緒させていただくようになってから、「本の装丁の豪華さでその出版社の気合いの入り方がわかる」というお話をされていて。「直木賞や芥川賞を狙っている本は、表紙に箔が入っていたり、ちょっと凝っていたり、絵が豪華だったりするからわかるよ」と聞いて「へえ〜!」って(笑)。書店では表紙をよく見るようになったかもしれないですね。そして書店員の方が書くポップが昔から好きなので、どういうことを書いているのかな? と見に行くことはあります。

――確かにそれは書店に足を運ばないとわからないものですよね。

 そうなんです。この間、長期休暇を取って1週間、ヨーロッパに行ったときに、スペインとポーランドの書店にそれぞれふらっと立ち寄ったんですね。「昔話みたいな絵本はどれですか?」と店員さんに聞いて、いくつか出してもらったなかから「あなたが好きなお話はどれですか?」と聞いたんです。すると、スペインの人も、ポーランドの人もすごくいい顔して、どの本を薦めようか? と悩み始めて。その様子を見ていて「国境を超えても、書店の人に悪い人はいないな」と思って(笑)。だから、書店や本がまた好きになりましたね。