『K―POP現代史 韓国大衆音楽の誕生からBTSまで』
山本浄邦『K―POP現代史 韓国大衆音楽の誕生からBTSまで』(ちくま新書・946円)は、K―POPの国際的人気を「国内市場が狭い」「国家の後押し」等(など)の短絡的理解ではなく、韓米日の一〇〇年以上の歴史に根差す豊かな達成として論じる。その背景には苦難の中で自由を模索した大衆たちの姿がある。近年のK―POPは政治的自由と民主化を求める「闘う大衆音楽」であり、多国籍的な異種混交性を解き放つ。山本は文化の抑圧に抗(あらが)うファンコミュニティーの力が大きかったと強調する。歴史の学びで「推し」の愛もさらに豊かになる、と確信させてくれる見事な一冊だ。
★山本浄邦著 ちくま新書・946円
『「イクメン」を疑え!』
関口洋平『「イクメン」を疑え!』(集英社新書・990円)は、『クレイマー、クレイマー』『ミセス・ダウト』等の映画を題材とし、複雑なケアネットワークを切り詰めて「父親が育児に参加すれば問題は解決する」と言いたげなイクメン言説を批判的に検証する。そこには福祉国家を縮減し、家事育児をもビジネススキル化する新自由主義的な男性像を強化する面がある。近年は応援対象の差別やハラスメントをスルーしたり正当化したりするtoxic(有毒/有害)なファンコミュニティーが問題視される。映画内の男性・父親の像を批判的に問う「闘う観客」が必要だろう。
★関口洋平著 集英社新書・990円=朝日新聞2023年5月6日掲載