【好書好日の記事から】
>岸田奈美さん「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」インタビュー 人生を変えた、ブログにつづった家族愛
どん底を笑いに変えて進む力
――岸田奈美さんの原作は読みましたか?
はい。読ませていただきました。奈美さんが、もうほんとにどん底なんじゃないかという状況に陥っても、それを笑いに変えて元気に進んでいく姿にすごく力をもらいました。私も小さいこと大きいこと、人生いろいろありますが、そうやって生きていきたいなって。どんなことも笑い飛ばして、ポジティブになれたら。それができない日があったとしても、そこを目指して生きていくことが素敵だなと思いました。
原作をベースにしているけど、作品は全然違う世界観になるから、原作に引っ張られないようにするために読まなくていいよ、と言われることもありますが、そうでないときは読んでいます。原作があるから、わたしたちが動き出せるというか、原作は作品を生み出すひとつの卵でもあるので。本作でいえば、岸田家の雰囲気やポリシーとか、原作が持っているテイストというのは、演じる上で常に心に置いていました。
――原作を読んだ岸田家の印象は?
すごく明るいですよね。一度、奈美さんとお母様のひろ実さんと弟の良太さんが撮影現場にいらしてくださって、本に描かれているままの印象のご家族でした。奈美さんの明るさやひろ実さんの笑顔、良太さんのほのぼのしたかわいらしい感じも、本当に素敵なご家族だなと思いました。
家族はまず「個」があってチームになる
――本作は、家族に次々と問題が押し寄せてきます。坂井さんが演じる母親は夫を亡くして一家を支える立場でありながら、半身不随になってしまう。肉体的にも精神的にも難しい役どころです。
私が演じるひとみが味わったどん底の気持ちだったり、母親としての気持ちだったりは、台本を読み、感じ、ただただ、想像するしかないのですが。河合さん演じる七実とのやり取りの中で、たくさんの感情が溢れてきますし。私自身も娘を持つ母として自分の経験を重ね合わせたり、原作や脚本に書かれていないこともたくさん想像したりして、役作りをしていきました。ただ、心はそうやって作り上げていくことはできたとしても、車椅子は体験し、きちんと練習する必要がありました。
病気の症状によって体の動かせるところが違うので、ひとみと同じ症状をお持ちの方のお話も聞かせてもらいました。車椅子の動かし方や生活の仕方の講習を受け、家にも車椅子を持ち帰って練習しました。ひとみの症状は腹筋が使えないので、どこかに必ずつかまらないと倒れてします。ドアの開け閉めや、食事の仕方などを練習しながら体の使い方を学びました。どんなことが大変なのか、辛いのか、病気の症状を抱えながらの生活を体験しながらひとみと言う人に近づいていきました。
――撮影現場はどんな雰囲気ですか?
草太役の吉田葵くんは本当にチャーミングで、いつでもポジティブで、彼がいることで終始明るい現場になりました。七実役の河合優実さんは、以前からすごくすてきな女優さんだと思っていたのですが、一緒に脚本について話したり、岸本家の家族関係について考えたり、すごくいい時間を持てたと思います。私の母親役の美保純さんも楽しい方で、いろんなアイデアを考えてきてくださるので、作品の中にすごく楽しいスパイスが入ったと思います。
――印象的なシーンはありますか?
監督の大九明子さんが演出の中で「家族があって、そこから何かが生まれるんじゃなくて、ひとりひとり個であるからこそ、家族になってつながりができるんだ」というような言葉をよく使われていました。「家族だからこうなんだ」ではなく、まず個があってこそ、そこからチームになっていく。「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」というタイトルにもとても深味を感じますが、そこに大九監督の感性が加わり、さらに深く、そして普遍的な家族が、いろいろなシーンで表現されているのではないでしょうか。
家族は言葉にできない力をくれる
――坂井さんにとって家族はどんな存在ですか?
いてくれるだけで、心強い存在ですね。面倒くさいことも、大変なこともたくさんあるんですけど、でも、言葉にできない大きな力をくれます。子どもから学ぶこともすごくたくさんあって、子どもによって親にさせてもらっているとよく言いますが、ほんとにその通りだなと思います。教えているようで教えてもらっているなと思うことがすごく多い。この年齢になったら、もっといろんなことがわかっているのかなと思っていたんですけど、まだまだ人として学ばなければ、成長していかねばと、そう思わせてくれる家族に感謝です。
――お仕事に子育てにお忙しいと思いますが、普段、読書はされますか?
仕事関係の本は読みますが、ここ10年くらい、好きな本を読む余裕がなくて…。子どもに読み聞かせをしていたので、絵本はけっこう読みました。『ぐりとぐら』(福音館書店)とか、自分が小さいころに好きで読んでいた本は、今も読み続けられていることがうれしくて、読み聞かせにも力が入りますね(笑)。酒井駒子さんの絵本も絵がきれいで好きです。『よるくま』(偕成社)は、働いているお母さんの話なので、自分と重なる部分もあって、読みながらジーンとしてしまうんですけど、すごくたくさん読みました。時間ができたら、のめり込めるような深い小説を読みたいですね。