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創設からの歩みを描き出す「幕府海軍」 田中大喜が選ぶ新書2点 

『幕府海軍』

 江戸幕府の海軍といえば、勝海舟や咸臨丸が有名だろう。金澤裕之『幕府海軍』(中公新書・902円)は、安政2(1855)年の創設から慶応4(1868)年の解体に至るまでのその歩みを描き出す。
 徳川家の私的軍事力としてスタートした幕府海軍は、装備の洋式化を進める一方、近代海軍となるべく試行錯誤を繰り返す。そしてついに、身分や出自の制約を受けない人事制度を確立し、統一された意思の下に整然と行動する能力を身につけ、目的を達した。が、その時すでに幕府が消滅していたという事実は、あまりに皮肉である。
★金澤裕之著 中公新書・902円

『東京史 七つのテーマで巨大都市を読み解く』

 幕府海軍が近代化を達成した頃、江戸は東京と改称し近代化へと歩み始めた。源川真希(みながわまさき)『東京史 七つのテーマで巨大都市を読み解く』(ちくま新書・990円)は、「破壊と復興」などの観点から東京を通して浮かび上がる近現代史を一望する。
 なかでも大正末期から進められた「都市美」を求める運動と、近年のIT化は興味深い。前者は一部の人々に対する差別的まなざしと排除を伴い、戦後も繰り返し訴えられた。一方、後者は国際経済・金融都市の実現という課題と不可分に結びつき、地域間・住民階層間の格差を拡大させた。東京が抱えている課題と現状をあますところなく示す。
★源川真希著 ちくま新書・990円=朝日新聞2023年6月3日掲載