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雑誌「AIRLINE」 読むほどに募る旅への思い

「AIRLINE」

 私は旅行が好きで、そのために会社勤めも辞めたほどだが、実は飛行機が苦手である。狭いシートにずっと座っていなければならないのが苦痛なのだ。短時間なら我慢できるが、長時間飛ぶ国際便は、出発が近づくにつれどんどん憂鬱(ゆううつ)になってくる。エコノミークラスのシートは狭すぎるのではあるまいか。

 苦悩の末、あるとき一発逆転の秘策を思いついた。

 いっそのこと飛行機マニアになればいいのでは?

 シートが狭いことを除けば、飛行機は魅力的な乗り物だ。未知の場所へ運んでくれる魔法の箱というだけでなく、航空会社、機体、サービス、食事など、フライトごとに特徴があり、発着する空港も地域色豊かで、マニア心をくすぐる要素はたくさんある。

 マニアになれば、苦痛だった飛行機の旅が楽しみに変わるのではないか。

 雑誌「AIRLINE」6月号の特集「世界エアライン図鑑」を見たとき、かつてそんな辻褄(つじつま)の合わないことを本気で考えたのを思い出した。

 この号は「航空会社のスーパーガイド!」と銘打つだけあって、これでもかというほどたくさんのエアラインが紹介されている。ページをめくりながら会社のロゴや機体の多様なデザインを眺めていると、これらをひとつひとつ乗るか写真を撮るかしてコンプリートしたい欲望が頭をもたげてくる。同じ航空会社でもレアなデザインの機体があると聞けばなおさらだ。空港にやってくる機体を撮り集めた「飛来機通信」というページがあって、これこそまさにマニアの視点だと思った。電車でいう撮り鉄のような趣味のジャンルがあるらしい。

 写真を見るほどに飛行機ってかっこいいなあと思う。シートが狭くなかったら、いくらでも乗りたいぐらいだ。

 誌面はそのほか、最新機材のリポートや、フォトコンテスト、パイロットによるコクピット比較、国産機開発の歴史、航空業界を目指す若者向けのオープンキャンパスガイド、日本の空路の搭乗記など幅広い内容になっているが、機内食や空港ホテルの紹介記事は扱いが小さくて、ここはもっと深掘りしてくれてもいいように思った。あるいはとっくに書き尽くされたジャンルなのだろうか。

 また、たった1ページだけれども、ダイキャストモデルの紹介ページにも心惹(ひ)かれるものがある。バックナンバーを見ると「航空グッズ大集合!」なんて特集もあったようだから、このへんは初心者の入り口としてちょうどよさそうだ。

 読むほどに旅への思いが募り、楽しい気持ちになってきたが、一方でエコノミークラスのシートの狭さはもう何年も変わっておらず、いい加減に抜本的な変革が起こってほしい気がする。そのことだけは、よくよく飛行機たちに伝えておいてもらいたい。=朝日新聞2023年6月3日掲載