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メン獄「コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル」 ノウハウと根性、その先には

 外資コンサルティング会社での働き方を語る本書が類書の中で目立つ売れ行きを示しているという。特に強く支持しているのは就職を控えた学生ということだが、一読した感想は「さもありなん」。20年にわたって外資コンサルティングの業界で働いた評者から見ても内容はよくまとまっていると思う。抽象的なノウハウ論と具体的な根性論とが臨場感のあるコンサル現場のエピソードを織り交ぜながら語られるので読んでいて飽きることがない。コンサルティング業界に関心のある人でなくても、何らかの知的生産に従事している人であれば仕事上のヒントを得るところがあるだろう。

 と、ポジティブに評価した上で、本書が就職学生に支持されているという社会状況について感じたことを書いておきたい。かつてオウム真理教事件が起きた際、名だたるエリートがカルト教団に帰依していたことに世間は衝撃を受けた。しかしわたしはむしろ、エリートだからこそカルト教団にハマったのだろうと感じた。なぜか? そこに「わかりやすいマニュアル」が存在するからだ。オウム真理教では、小乗・大乗・金剛乗へと修行のステージがあがっていくというわかりやすい階層を提示した上で、教祖の主張する修行を行えば、あっという間に階層を上って解脱できる、と語られていた。これはオウム真理教に帰依した受験エリートがかつて塾で言われていたのと同じことだ。そして、このようなわかりやすい階層システムを同様に採用しているのが外資コンサルティング会社なのである。カルト教団とコンサル業界を同一視するわけではないが、学生はまさに「マニュアル通り」に猛烈な仕事をこなし、日本企業では数十年働いても得られないような高額の報酬を手にできるという夢を描いてコンサルティング会社の門を叩(たた)く。しかしそれは幻想でしかない。本書を手にして運よくその門をくぐることができた人も遅かれ早かれ「マニュアルだけではサバイブできない」ということに気づくだろう。全てはそこから始まると思う。=朝日新聞2023年6月17日掲載

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 文芸春秋・1980円=5刷2万部。3月刊。担当者は「新卒の頃に読みたかった」などと「20~30代を中心に熱い支持が寄せられている」。電子版も7千ダウンロード超に達している。