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滝沢カレンさん「馴染み知らずの物語」インタビュー 名作15編のタイトルから着想した、まったく違う短編小説

滝沢カレンさん=篠塚ようこ撮影

【好書好日の記事から】

>好書好日連載「滝沢カレンの物語の一歩先へ」一覧はこちら

インタビューを音声でも

 ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」で滝沢カレンさんへのインタビューの音声を配信しています以下の書き起こしはインタビューを要約、補足したものです。

物語を書くのが夢だった

――まず、どんな本なのか、ご紹介いただけますか?

「馴染み知らずの物語」、きっと馴染みがある題名がいっぱい入っています。だけどその題名の一歩先は誰もまだ知らない。私が自由に書いてしまった「馴染みのない物語」が、馴染みのある題名と一緒になっているのが、この本の物語なんですよね。すごい本好きの方は「全然中身違うじゃん」となると思うのですが、元々の本の作者さんが考えた物語を元に、それは元になってないんですけど、また新しい物語を作ったという本です。分かりますか?

――そうですね……。目次を開いてみると「みだれ髪」「蟹工船」「あしながおじさん」「若きウェルテルの悩み」と、有名な作品のタイトルが15個並んでるんですけれども、すべて原作とはまるで違う「滝沢カレン・オリジナル」短編なんですよね。

 そうなんです、その通りです。

――改めて、約5年続いた連載が本になってみてどんな心境ですか?

 今この一瞬を言葉にするなら、もう「嬉しすぎる」です。私の中では本当に山を登って川を下って海を渡って、また湖をどうにか渡って、みたいな、毎回どこかを越えなければ、最後の「。」までたどり着けない連載だったんですけども、物語を書くのが夢だった私にとっては、いい意味で修行でした。

――修行!

 やっぱり修行というのは、何か山の上に行きたい場所があるから。私もやってみたい世界があるから、この修行という場を与えていただいて、いろんな自分と出会えたし、いろんな物語と出会えたし、いろんな感情と出会えた。一個一個、この題名を見ただけで、自分が書いたあの日の風景がちょっと思い出せる物語が多いですね。

――この連載はこちら編集部から提案した企画でした。やってみようと思ったきっかけは?

 きっかけも何も、そんなうれしいお誘いがあるならば、こちらこそ頭下げてお願いしたかったので、もうそれは両思いですよね。こっちは物語に対して片思いだったんですけど、それを「連載にしませんか」って言ってきてくださった時点でもう、両思いできたというか、思いは一個になりました。

――編集部からタイトルとあらすじを送って、毎回それをもとにお話を創造していただいています。

 そうです。題名と、その本が生まれた年月と、3~4行のあらすじがありまして、そこから続きを書いていく、というように始まりました。いろんな国の本の題名をいただいていたので、そこの国に合わせたり、逆に外国のような題名だけど日本の方の名前を付けて登場人物にしていったり、それがすごい楽しかったです。

人間じゃないものを主役にしたい

小さな頃
ひとりっ子だった私は
いろんなお話を読むのが好きでした。
だけどとびきり集中力のない私は
お話が終わる前に違うお話を読んでしまうんです。
だからいつもお話とお話が混じり合って
わけが分からない終わりを遂げたりします
――滝沢カレン『馴染み知らずの物語』

――本書の「はじめに」にもありましたが、滝沢さんは本を読むとき、いろんな本が頭の中でミックスされるんですね。

「小さな頃」と書きましたけど、実は31の大人になっても、まだこのやり方で私は本を読んでます。やっぱり終わる前に次の本が気になってしまう。そしてどっちも同じ物語にしてしまって勝手に結末を考えるのが好きなので。結局その1冊というよりも、2~3冊で終わりを遂げることが多いので、これ(小説執筆)もそれに近いかもですね。

――元のあらすじに自然とキャラクターが動き出して、新しい要素が加わっていくんですか?

 相当そうなってると思います。その時に目の前に見えたものだったり、昨日見た景色だったり、温度で書いちゃうことが多いので、勝手にどんどん登場する人が頭の中に集まってくる感じです。

――以前「料理レシピ本大賞」を取った「カレンの台所」も、「レシピ本を書いているというよりも、食材が織りなす物語を書いている」というお話をしていました。

 そうですそうです。特に食材とかお皿とか、人間でないものが感情を持って動き出すお話が好きです。この世では人間じゃないものを主役にしていきたいと私は思っているので。人の右頭上にモクモクみたいな感じで吹き出ししてる、自分が出てこない世界というか、そんな世界が好きで。料理本も、滝沢が出てこない、料理の食材が主役になった世界が今でも好きなんです。

――今回、本に収録されたものは、そういうストーリーが多いですよね。「蟹工船」はカニが喋って人間を救うとか、「変身」は人間がベッドになっちゃう。衝撃だったのは「妻が椎茸だったころ」で、しいたけの煮物が喋り出す……。どれも予想を超えた展開です。

 そうですそうです(笑)。私は、ゼロから100にすることよりも、0.5でも1でも、何かあるものから100にすることが、すごい好きなので。だから料理も、食材と協力して一個の物語が生まれたと思っています。今回も元々の作者様の題名が私のアイデアを訪ねてきてくれた感じがしたので、勝手ながら協力型の小説だったと思っています。

――なるほど、そういう考え方もあるのか……。ご自身の中で一番印象に残っているお話は?

 やっぱり「あしながおじさん」だったり「妻が椎茸だったころ」なんですが、実は涙を流しながら書いたのをすごい覚えていて。右上に出てくる絵みたいなものがあるんですけど、その絵の中を想像するだけで泣いてしまって。なのでこの二つは最後、ぼろぼろの涙で終わった、すごい思い出です。書きながら泣いた。指とこの涙がリンクした感じがしました。

――どれも絵本になりそうな、ファンタジックなストーリーが多いですよね。

 そうですね、1回外に行っちゃうと、現実に戻って来れなくて。

――きっとカレンさん、優しい人なんじゃないかと読みながら思いました。ハッピーエンドも多いし、衝撃のラストの時もなんだか少しほっとするような結末になっている。陰惨な結末ってあんまりないですよね。

 映画は怖いものやグロテスクなものも大好きなんですけど、自分が表現するとなると、怖く表現したいのに、その表現が自分の引き出しにないことはいっぱいありました。もっと怖く表現したいし、もっと人をドキドキさせたくても、それができないのは自分の言葉の数の少なさなのかなって、すごい考えた時もありました。

誰か1人でも喜んでくれるなら

――すごくお忙しいですけど、どこで書いてるんですか?

 書き方としては、BGMを1個の物語にまず選ぶんですよ。たとえば、ちょっとしんみりさせたいなと思ったら、バラードだったりクラシックだったり、ピアノのポンポンポンってだけで演奏してるような音楽をかけて、その1曲だけをずっと聴き、その1曲以外は聴かない。だからほとんど家でしか書けないんです。外だと迷惑になっちゃう。

 そこから、自分の頭から飛んで、雲の中で書いてるような感覚。私が書いてるんじゃなくて、私の頭の中が書いてる感覚、音だけの世界で書くのがすごい好きな時間でした。

――この連載「本にしませんか?」っていうお誘い、結構あったんですよ。でも最初、あまり積極的ではなかったと聞きました。

 そうです。申し訳ないぐらいそうで、やっぱり最初は「恐れ多いです」っていう言葉です。私なんかが書いたものを束にしてもらって、それをまさか本屋という、あんな神聖なる場所に置いていただくなんて、っていう思いがすごい強かったです。連載は私にとってすごい素敵な場所だったので、それを壊したくないなって思ってました、最初は。

――最終的にOKした理由は?

 連載が5年経って、世界も5年経ってる。私の人生の中でも、その5年が私にとってすごい変化というか、多分、自分の考えも変わったんでしょうね。あとは「この本を出したい」っていう強い編集の方の思いとか。誰かが一人でも喜んでくれるなら、その人のために出すのはいいんじゃないか。自分が自分で背中を押す理由になったので「出そう」って思いました。

――やっぱり熱心な編集者さんがいることは大きいんですね。

 そうでした。何度も「話を聞いてほしい」って言ってくださることが。それが自分にとってまず1個目のプレゼントをもらったので、私からも何か返したいっていう思いがこの本になりました。

――ウェブ連載から本になったのを見ると、縦書きになって改行もかなり減らした分、ギュギュッと圧縮されて濃密になったような感じがしました。すごく印象が違いますね。

 全然違いますね。文字の形から、このパラパラパラという風通しだったり、色みだったり。パソコンや携帯で見る、清々しく透き通った見やすい横文字も格好いいんですが、本から伝わる、まだ生まれたての紙の匂いだったり、これから年を取っていく紙質だったり、やっぱり全然違うなって思って。私は初めてこの書いたものたちが本になった時、本当に小さな小さな物語ではありますが、物語としてちょっと羽根を伸ばせたかなと思いましたね。

いつか物語を書きたい

――5年やってみて手応えはありますか?

 それがびっくりするぐらいなくて。5年の年齢と思い出の成長はあったとしても、文章でこんな表現できるようになったか、みたいなものは一度もなくて。読んだ方がそう思ってくれた時に「あ、じゃあ、それを成長と呼ぶなら成長なのかもしれない」けど、自分にとっては、「もう出てこない、出てこない」と思いながら書いてます。

――先ほどの「やってみたい世界がある」とは? 物語を作ることですか?

 はい、今、30代の物語だったり、60代、70代、80代、90代、100歳。できれば私、500歳まで生きたいので(笑)、500歳までの物語を、自分がどんな表現で、どんな世界で自分の頭の中を描けるのだろうって。それが小説なのか絵本なのか漫画なのか、何になるか分かりませんが、文字と一緒に仲良く表現していきたいです。

――作品をいつか世に出したい?

 世に出せたら最高ですけど、自分の中でも、思ったことをちゃんと文字にできるように(なりたい)。まずは自分が今感じたことや、景色、匂いを文字にした時、どう自分は表現できるかなと。いつかそういう絵本とか、少ない文字で表現できることはすごい自分の夢です。

――どんな物語を書いてみたいですか?

 私は小さな頃から、不思議なものや、自然の中とかがすごく好きなので、木々とか草花とかに囲まれた世界だったり、そこで生きる物語だったり、そこで生活する人の恋だったり、そういうものをいつか書きたい。まあ、それは今日の意見なので、また明日変わってるかもしれないので。

――連載は今後も続きます。また今後もぜひ、誰も予想しなかった物語を、好書好日を読んでいる皆さんに届けてください。

 こちらこそです。届けてください。よろしくお願いします。