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松下憲一さん「中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史」インタビュー 中国史の新たな側面に光

松下憲一さん

 発売前、歴史ファンの間で「講談社選書メチエで鮮卑拓跋(せんぴたくばつ)の本が出るらしい」と話題になった。聞き慣れない鮮卑拓跋とは、3世紀に登場し、現在の中国北部やモンゴルなどで活躍した遊牧集団「鮮卑」の一部族「拓跋部」のこと。晋の衰退からはじまる五胡十六国の時代を統一した北魏を建国したことで知られる。

 本書は、その拓跋部のルーツから隋(ずい)・唐帝国時代まで300年以上に及ぶ彼らの通史を描いた一冊だ。

 静岡県掛川市生まれ。「小学校の時、まんが日本の歴史を読み、地元の遺跡や出土品などを見て回ることで歴史に興味を持った」と話す。

 北海道大学大学院博士後期課程修了。卒業論文では三国時代の魏(ぎ)の重要拠点だった五都についてまとめたが、その一つである都市・洛陽に特に興味を抱き、修士論文以降は、「同じく洛陽を都とした北魏へと研究テーマが広がった」という。

 本書で主張されるのは、従来、夷狄(いてき)といわれる異民族が中華文明に同化(漢化)する歴史としてのみ語られてきた中国史が、実際には北方遊牧民が関与した「新たな中華の創造の歴史」だったということだ。

 たとえば唐の「宮楽図」は、着飾った女性が愛犬のかたわらで胡琵琶を奏でる様を描くが、「女性の化粧や服、ペットとしての犬、胡琵琶、テーブルと椅子などはすべて遊牧民が持ち込んだもの」と指摘する。

 皇太子の母が死ななければならない「子貴母死」の決まりや、華北を統一した北魏の太武帝が行った仏教弾圧の背景など、概説書でもわずかしか触れられていない事柄も詳述しつつ、かつ根拠となる出典まで示してあるのは「専門書」ならでは。

 「遊牧民では女性が活躍しました。次は彼女たちが大きく関わった、五胡十六国から隋唐の時代の後宮制度についてまとめられたら」(文・写真 宮代栄一)=朝日新聞2023年7月1日掲載