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「自然、文化、そして不平等」書評 データを示し政策批判

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月29日
自然、文化、そして不平等 国際比較と歴史の視点から 著者:トマ・ピケティ 出版社:文藝春秋 ジャンル:経済

ISBN: 9784163917252
発売⽇: 2023/07/11
サイズ: 19cm/96p

「自然、文化、そして不平等」 [著]トマ・ピケティ

 『21世紀の資本』で世界を席巻したトマ・ピケティが、昨年3月に行った講演録。現代社会の不平等の源泉と政策の役割を、丁寧にデータを示しながら簡潔に解説している。話の肝は、ここ数百年の、欧米の所得や資産についての歴史的事実だ。不平等は自然発生したわけではなく、「政権運営を担うのが誰か、何をめざすのか」によって人為的につくられていると語る。さらに、累進課税の緩和や公的教育への支出抑制など、政府の財政危機を口実によく喧伝(けんでん)される主張に合理性はなく、課税強化や公的債務の負担増によって経済成長が抑制されたという歴史的事実もないとつなげる。
 本書は、ピケティの政策批判の書であるのと同時に、自身も強調するように、フランス経済史研究者の不断のデータ構築の結晶でもある。大胆だが説得力のあるピケティの主張は、これほどまでの蓄積があってこそだ。日本の不平等を考えるのに必要なのは何か、参考となろう。