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中国・東南アジアでの戦闘の実態に迫る「日本人が知らない戦争の話」 田中大喜が選ぶ新書2点 

『日本人が知らない戦争の話 アジアが語る戦場の記憶』

  日本では後景に退きがちなアジア・太平洋戦争における中国・東南アジアでの戦闘。山下清海『日本人が知らない戦争の話 アジアが語る戦場の記憶』(ちくま新書・968円)は、現地での取材をもとに戦場となった当該地域の実態を白日の下に曝(さら)す。
 日本軍によるシンガポール国民の大多数を占める中国人の選別と大量虐殺は、ナチスドイツによるユダヤ人のそれを彷彿(ほうふつ)とさせ衝撃的である。だが、同国では「許そう、しかし忘れまい」をスローガンにこの事実を詳細に学ぶことで、親日的な国民が比較的多いという。過去に正面から向き合う覚悟が建設的な未来を築くことを痛感させられる。
★山下清海著 ちくま新書・968円

『御成敗式目』

 初の武家法として名高い御成敗式目。佐藤雄基『御成敗式目』(中公新書・1012円)は、式目を当時の社会のなかに位置づけながら、その法としての特質や受容の実態を論じる。
 幕府は律令法が社会から乖離(かいり)していることを意識して、式目をより社会の実情に対応する法として制定した。これにより式目は、寛喜・正嘉の2度の大飢饉(ききん)を経て社会に広く参照される「天下一同の法」となったが、驚くべきは憲法改正論議に参照されるなど現在にまでその受容史が続いている事実である。式目を通して歴史の持つアクチュアリティーを存分に語る
★佐藤雄基著 中公新書・1012円=朝日新聞2023年8月12日掲載