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「ウィッピング・ガール」書評 トランス女性を起点に気づきをうながす

評者: 小澤英実 / 朝⽇新聞掲載:2023年08月19日
ウィッピング・ガール トランスの女性はなぜ叩かれるのか 著者:ジュリア・セラーノ 出版社:サウザンブックス社 ジャンル:生き方・ライフスタイル

ISBN: 9784909125408
発売⽇: 2023/05/16
サイズ: 19cm/430p

「ウィッピング・ガール」 [著]ジュリア・セラーノ

 性別に違和を持つ(トランスの)人々のなかで、メディア上に可視化するのも社会的議論の焦点になるのも、女性ばかりなのはなぜだろう。トランス嫌悪(フォビア)とは多くの場合、トランス女性嫌悪(ミソジニー)であることへの気づきを促す本書は、トランスセクシュアルをめぐる大衆的・学術的な言説が、いかにジェンダーの二元性を強化するかを例証し、社会に浸透するセクシズムの構造を解明する。
 生物学者でトランスの女性である著者は、自身の学問的知見と性別移行経験を交えて、ジェンダーが先天的か後天的かという常套(じょうとう)的な二項対立の誤謬(ごびゅう)を正し、混淆(こんこう)的な性のあり方を明示する。著者はトランス女性嫌悪を二項対立と伝統的なセクシズムの複合形態とみるが、もう一つの大きな要因は異性愛主義(ヘテロセクシズム)だろう。
 社会的なジェンダー規範を揺るがすゆえに叩かれるトランスの女性を起点に、既存のフェミニズムの膠着(こうちゃく)状態を越えていく性の議論は、あなたの性への考えを大幅に更新するはずだ。