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「俊徳丸・小栗判官」書評 説経節を本来の姿に近づけた労作

評者: 福嶋亮大 / 朝⽇新聞掲載:2023年08月19日
俊徳丸・小栗判官 説経節 他三篇 (岩波文庫) 著者:兵藤裕己 出版社:岩波書店 ジャンル:一般

ISBN: 9784003028612
発売⽇: 2023/07/19
サイズ: 15cm/397p

「俊徳丸・小栗判官」 [編注]兵藤裕己

 説経節の演目である「俊徳丸」や「小栗判官」「山椒太夫」は、森鷗外、折口信夫、寺山修司から蜷川幸雄、近藤ようこに到(いた)るまで、多くの創作者の心をつかんできた。ただ、説経節はもともと中世の漂泊民による語りの芸能であり、時代を経るうちに、その原形は見失われてしまった。本書は長年の研究成果と語り物のフィールド調査を踏まえて、説経節をその本来の姿に近づけた画期的な仕事である。
 その綿密な校訂作業のおかげで、世界そのものが低い地声で語りかけてくるような説経節特有の文体は、いっそう濃密に感じられるようになった。前世の呪い、過酷な人身売買、病ゆえの差別――これらの重いテーマは〈善悪の彼岸〉で響く声となり、読み手に迫ってくるだろう。2023年になって、説経節はついに信頼に足りるテクストとして(いわば小栗のように)よみがえった。日本の古典文化や芸能に関心があるならば、ぜひとも手元に置くべき一冊である。