1. HOME
  2. コラム
  3. 新書速報
  4. 暗殺事件の「動機」に迫る『「山上徹也」とは何者だったのか』 杉田俊介が選ぶ新書2点 

暗殺事件の「動機」に迫る『「山上徹也」とは何者だったのか』 杉田俊介が選ぶ新書2点 

『「山上徹也」とは何者だったのか』

 鈴木エイト『「山上徹也」とは何者だったのか』(講談社+α新書・990円)は弁護人や親族への取材、また本人との間接的なやり取りを通して、安倍晋三元首相暗殺事件の「動機」に迫る。鈴木によれば、SNSの記録に基づく山上分析には限界がある。世代論や格差社会論では足りない。山上には「自分と同じような被害者をこれ以上生まないため」に、「自身の今後の人生と引き換えに社会を変革する」という明確な「目的」があったのではないか――それが現段階での鈴木の推察である。何より重要なのは、公正な情報と判断のもとに、今後の裁判が行われることだろう。
★鈴木エイト著 講談社+α新書・990円

『トランスジェンダー入門』

 近年、政治と宗教が国際的な「反ジェンダー運動」を形成している。特にトランスの人々への攻撃は凄(すさ)まじい。とはいえそれは最近、突然始まったわけではない。しばしばトランスの人々の「問題」が争点になる。しかし煽情(せんじょう)的な「問題」を議論する前に、まずは当事者の生活と現状を正確に知るべきだ。周司あきら・高井ゆと里『トランスジェンダー入門』(集英社新書・1056円)は最良の入門書である。一読すれば、真の「問題」は、トランスの人々を排除する(家族・教育・就労・医療等々の)制度・構造の側にあり、それを維持する非トランスの「我々」の側にある、とわかるはずだ。
★周司あきら・高井ゆと里著 集英社新書・1056円=朝日新聞2023年8月19日掲載