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「ユートピアとしての本屋」関口竜平さんインタビュー 30歳の書店主は思う、本屋の本質は「置かない本」に表れる

関口竜平さん=朴順梨撮影

【連載「本屋は生きている」より】

>【小屋時代のインタビュー】lighthouse(千葉) 元サッカー少年が詰め込んだ「楽しい人生を送るための何か」1000冊

「小屋」から移転した理由

――連載当時に訪れた10平方メートル以下の小屋と比較すると、今の店舗はどのぐらいの広さになりましたか?

 ここが約40平方メートルなので、単純計算すると小屋4つ分くらいですね。小屋は自分で作ったプレハブでしたが、2020年の夏には暑すぎて「もう来年は無理だ」と思っていました。気温は上がる一方なのに、自分の体力は年々落ちてくる。だからどうしようかと考えていた時に、コーヒー店のHAMANO COFFEE STANDの方から、並びの店舗が空きますよと声をかけられたんです。

 それで物件を見に行きましたが、すぐに「これは逃してはならない」と感じて。居抜きでそのまま使えそうだったし、家賃も比較的手頃。大通りから1本入っているけれど、駅から徒歩5~6分で到着する。もう、ここに導かれたって思いましたね。奥に1部屋あるので、そこで映画上映会や読書会などイベント的なことをやりやすくなったのが、一番の変化です。

「小屋」時代のlighthouse。壁には、文筆家で漫画家の小林エリコさんから近所の子どもまでによる、フリーダムな落書きがあった。

 小屋自体はまだ残していますが、今年中に解体する予定です。何らかの形でlighthouseと関わりのある場所として存続はさせたいとは思っていますが、まだいろいろ考え中です。

まずは「特権」に気づいてほしい

――旧TwitterなどSNSで、政治やジェンダーのことや、マイノリティーへの差別に抗するスタンスをハッキリと表明しています。特に、

 というように、ヘイト本を置かないことについて何度も言及してますよね。

 そうです。ヘイト本を主軸に、本屋の責任をテーマに何か書いて欲しいというメールが、2021年の夏ごろに担当編集者から届いて。そこからキーワードを膨らませていって、1冊にまとめました。以前は書籍の企画・編集・販売と他社本の取引代行 を請け負う「トランスビュー」と、千葉県佐倉市にある「ときわ書房志津ステーションビル店」でも仕事をしていて、小屋にかけられるリソースが少なかったんです。でも移転してlighthouseに割く時間が増え、自分の方向性も固まりつつあった時期だったので、本にまとめてみようと思いました。

すっきりしたガラス張り、なんだけど小屋感も忘れていない。

――書き始めたのは2021年からとありますが、2010年代よりはヘイト本の勢いが落ちてきた頃です。だから反ヘイト本というより、本屋そのものをテーマにしたのでしょうか?

 そこは僕も分けていなくて。実は書籍って、その本がどんな内容かを示す「Cコード」というものがあるのですが、本屋をテーマにした本は通常、評論や随筆などと同じ番号がつきます。でもこの本は書店に1冊だけ入荷した時に、現代社会のコーナーに置いてもらいたかったので、社会がテーマの本と同じ番号になってます。だから、自分の生い立ちや書店員としての経験、小屋についての話は1章分しか書いていないんですよ。苦労話とかも、それを書くのは僕の役割ではないと思ったので、ほとんど触れていません。

 確かに分かりやすいヘイト本は刊行点数が減りましたが、自覚のない、悪意のないところから生まれる差別に目を向けないと何も変わらないということは意識したいので、マイクロアグレッション(自覚なき差別)についてはかなり踏み込みました。

小屋時代から変わらぬ、駄菓子10円。

――「ヘイト本が並ぶ本屋は、剥き出しの刃物が至るところにある本屋だ」と言いきっています。一方で「ヘイト本も表現の自由のひとつ」と、思考停止しているとしか思えない主張をする書店もあります。

 まず誰もが安心していられる場所があるということ、それがあってはじめて表現の自由というものが存在しうると考えています。その順番を間違えてはいけないんです。 ヘイト本が並んでいることで、その店に入れない人がいるかもしれない。その時点で、表現の自由は成立していない。表現の自由を毀損されている人がいることに、まずは気づかないといけない。何も考えずに本屋に入れることは、ある意味、特権であるということに気づいてもらいたい。

 でも、「あなたには特権があるんですよ」と言われると、人間って結構イラっとしがちなので、まずは気付いてもらいたい。その上で誰かを配慮したとしても、別に損はないはず。本屋の本質は「置いていない本」に出るのではないかと思っています。

――本屋に行くと置いてある本ばかりに目がいってしまうので、「本質は置いていない本に出る」というのは、考えたことがありませんでした。

 ヘイト本があろうがなかろうが、傷つかない属性のマジョリティーは気にせずに入って来られるので、むしろ置かない方がお客さんは増えるんですよ。「うちはヘイト本はありません」と明言することにより、安心して来られる人を獲得できるわけですから。ヘイト本的なものがどうしても欲しいなら、ネットで注文するだろうし。

 こう考えるのは、僕自身が特定のものに対する愛着をあまり抱かないからかもしれません。本に対してもこのジャンルが大好きです、この作家さんが大好きですみたいな思考回路にならない分、どういう本を置いてるんですかという質問にうまく答えられないので、「むしろ答えやすいのは置いてない本です」と言うことが多くて。そういうところから導き出された結論かもしれません。

店内の棚はIKEAと、2020年9月まで蔵前にあったH.A.Bookstoreで使われていたもの。これはH.A.Bookstoreのお下がり。

本好き以外も居心地よくいられるために

――とはいえ、本屋lighthouseは店主こだわりの棚ではなく、コミックやベストセラー小説の文庫などもしっかり揃えています。

 本屋lighthouseは総合書店だと思っているし、チェーン店の書店員経験があるので、僕の棚はチェーン店書店の発想なんですよ。こだまさんや僕のマリさん、鹿子裕文さんの『ブードゥーラウンジ』(ナナロク社)は小屋を始めた時からずっと置いていますが、年に1、2冊しか本を読まないような人でも知っている作家の文庫が1冊でもあれば、「ここの本屋は私ともつながっている」と思えるのではないかと。いわゆる本好きではない人でも居心地よくいられるためにも、文庫やコミックは外せないと思っていて。

 あと、居抜きで本棚しか新しくしていないけれど、ガラス張りで敷居が高くなりそうな雰囲気だったので、外から見える貼り紙は、わざとちょっと雑に貼っています。棚も綺麗に入れてはいるけれど、あえて何冊かは横積みにして親近感を演出しています(笑)。

本屋lighthouseのマスコットキャラ、「おぺん」が貼り紙のあちこちに。 

一緒に怒られながら元気になろう

――1冊を通して、差別にどう向き合っていくかについて触れていますが、読み進めていくと本屋としてのスタンス以上に、人間としての姿勢を問う内容になっていますよね。

 後半の章では、社会を変える力は一人ひとりにあるんだっていうことを伝えていきたかったし、それが翻って本屋の責任にもなると思いながら書き進めました。僕自身、本屋である前に一個人だし、誰もが自分の周りの人間に影響を与えてしまっている。だからこそ自分は無力だと思わずに、社会を良い方向に持っていくための行動が必要で。その責任を自覚しないから、何も考えずにヘイト本を置いてしまうのかもしれない。

 帯に“みんなのための”本屋論とあるのですが、それはセーファースペースとして皆が安心していられる、ユートピアとしての本屋を作るには? ということと、本屋を媒介に一人ひとりが、この世界でどう生きるのかを問う2つの意味があります。だから本屋に興味があったり、本屋を運営したりしている人にはもちろん読んでもらいたいですが、「自分は無力だ」とか「影響力がない」と感じて絶望している人にこそ、届いて欲しいと思っていて。

 でも、どういう本かを一言で紹介しろと言われたら、僕は「読むと元気になる本です」と答えます。途中で怒られている気持ちになるかもしれないけど、最後で元気になる本にしています。それは僕が一方的に誰かを怒っているのではなく、僕も今まで見えていなかったことについて怒られているので、一緒に怒られながら元気になりましょうって。