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古典的な探偵小説風ながら現代性を持つ『処刑台広場の女』 若林踏が薦める新刊文庫3点

若林踏が薦める文庫この新刊!

  1. 『処刑台広場の女』 マーティン・エドワーズ著 加賀山卓朗訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1320円
  2. 『8つの完璧な殺人』 ピーター・スワンソン著 務台夏子訳 創元推理文庫 1210円
  3. 『おれたちの歌をうたえ』 呉勝浩著 文春文庫 1419円

 (1)は英国で評論家としても活躍する著者の長編ミステリ。一九三〇年のロンドン、コーラスガール殺人事件を瞬く間に解決へと導いた素人探偵、レイチェル・サヴァナクには秘密があった。彼女は自分が突き止めた殺人者を死へと追いやっていたのだ。レイチェルに興味を抱いた事件記者のジェイコブ・フリントは彼女の正体を突き止めようとする。古典的な探偵小説の雰囲気を纏(まと)いながら、物語の中心となるレイチェルのクールなヒロイン像はいかにも現代的。古さと新しさが上手(うま)く溶け合った、山あり谷ありのスリラーだ。

 古典ミステリへの敬愛に満ちた作品と言えば(2)。ミステリ専門書店の店主であるマルコム・カーショーの元にFBIの捜査官が訪ねてくる。マルコムは過去にもっとも巧妙で成功確実な殺人が描かれている犯罪小説を八作選び、ブログにリストを掲載していた。実はそのリストを基に殺人が行われているのではないか、と捜査官は言う。著者のミステリマニアぶりを見せつける凝った趣向が堪能できる小説だ。作中の犯罪小説八選について真相が言及される部分もあるので、未読の方はご注意を。

 呉勝浩は犯罪によって人生を歪(ゆが)められた主人公を巧みに描くミステリ作家だ。(3)はその本領が発揮された長編で、元刑事の主人公が旧友の死をきっかけに、四十年前に起きた悲劇と再び向き合うという話。暗号を題材とした謎解き小説でもあり、過去と対峙(たいじ)する主人公のドラマを暗号解読が効果的に盛り上げている=朝日新聞2023年8月26日掲載