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「鉄道と愛国」書評 中国への新幹線輸出を多面的に描写

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2023年09月30日
鉄道と愛国 中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた 著者:吉岡 桂子 出版社:岩波書店 ジャンル:産業

ISBN: 9784000616034
発売⽇: 2023/07/18
サイズ: 19cm/293p

「鉄道と愛国」 [著]吉岡桂子

 冒頭に、鉄道は国家と個人、歴史と現在の交差する場とある。本書はその通りの書で、新聞記者として、あるいは一人の鉄道マニアとしての目で、日本の新幹線の対外進出(特に中国)、その後のアジア諸国への進出競争、各国の鉄道状況も乗車体験で描写している。
 鉄道は人と物資を運ぶわけだが、それぞれの国の文化、生活習慣、速度を競う国民的誇りも運んでいることに気づく。日本は新幹線の輸出にあたって「車両、信号、運行システム」の3点セットへのこだわりが強い。安全確保のために必須との考えだ。日本は売り手の言い分を通そうとするが、買い手の仕様に目を向けるべきではないか、との指摘は貴重である。
 鉄道の輸出に関わる政治と経済の関係、泰緬(たいめん)鉄道を国連教育科学文化機関(ユネスコ)での世界遺産指定を目指すタイとそれに抵抗する日本、「鉄道」から見える「歴史戦」に神経質な日本の姿など、興味ある事実が示されている。