
ISBN: 9784750517964
発売⽇: 2023/06/20
サイズ: 22cm/782p
「WHITESHIFT 白人がマイノリティになる日」 [著]エリック・カウフマン
「僕たちがマイノリティになるのなら、他のすべてのマイノリティのように、自分たちを擁護するクラブを作る権利があっていいはずだ」。本書で紹介される白人大学生の疑問だ。今後、同種の疑問を抱く白人は増えそうだ。地球規模での移民の加速化で、数十年のうちに、今は白人が多数派を占める国でも、白人は少数派になると予想されている。未来を悲観する一部の白人は移民排斥に走り、白人の不安を利用しようと移民敵視政策を掲げる右派政治家も台頭する。異なる人種がいがみあう殺伐とした未来が到来するのか。
より調和的な未来は可能だと著者はいう。「ホワイトシフト」とは、白人が減少する一方で、白人の伝統的な文化を身につけた混血人種が新たなマジョリティを構成する未来のことだ。「シフト」を円滑に進めるには条件がある。
まず、アイデンティティ政治を白人集団にも開く。今の欧米では人種的マイノリティが集団への帰属意識を示すことは許され、奨励すらされるが、少数派に転落する運命の白人が集団への愛着を示すと「人種差別」と批判される。これはアンフェアであり、白人によるアイデンティティの表明が外集団への攻撃を伴わない穏健なものなら抑圧すべきでないと著者は説く。
移民の流入を制限し、社会の変化の速度を落とす必要も出てくる。変化より安定を望む人は少なくない。とりわけ前例のない人口減少を経験している白人が大規模な移民を歓迎できないのは自然だと著者はみる。
論争の書だ。白人マジョリティの擁護との批判もある。ただ、本書は重要な問題提起を含む。寛容な移民政策を掲げてきた米バイデン政権は、5月、不法越境者への対策を厳格化した。世論調査でも移民削減を支持する人は増加を続ける。多様な存在が平和的に共存する未来はいかにして可能か。この課題に誠実に向き合う人に、賛否を超えて広く読まれるべき書だ。
◇
Eric Kaufmann 1970年生まれ。ロンドン大バークベックカレッジ政治学教授。専門はナショナリズムなど。