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「親密な手紙」「新装版 大江健三郎同時代論集」、大江健三郎さんの二つの新刊

 3月に88歳で亡くなった大江健三郎さん。その晩年と初期のエッセー・評論の神髄に触れられる二つの新刊が、岩波書店から登場した。

 今月20日刊行の新書『親密な手紙』は、雑誌「図書」での2010~13年の連載を収録。師・渡辺一夫やサイードらゆかりの深い書き手について語る読書案内であると同時に、自身の作品や日々の出来事も重ねてつづった、気さくなエッセーだ。

 大江さんは生前、刊行に向けて連載を全面改稿していた。書き下ろしも加えるべく熟考を重ねていたが、実現はかなわず逝った。「それでもこの本を出したかったのは、未来に向けて書かれている感じがしたから」と、担当編集者の坂本純子さん。連載中には東日本大震災もあった。「困難な時代にあって、私たちはどうやって希望を持って生きていけるのか。それを読者に伝えたい思いが大江先生にはあったのでは」

 一方、8月から11月にかけて『新装版 大江健三郎同時代論集』全10巻も刊行中。デビュー以来のエッセー・評論から著者自ら編み、1980~81年に出版した大作を復刊した。担当した奈倉龍祐さんは「『同時代』を強く意識しつつ、その全体像を見るように書かれているので、いま読んでも目の前の現実を考えるヒントが詰まっている」。単行本未収録の文章もあり、新たな大江健三郎像に出会えそうだ。(田中ゑれ奈)=朝日新聞2023年10月21日掲載