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角野栄子さん「魔法の文学館」館長に就任 絵本・児童書1万冊「自由に遊んで」

1階にある読書スペース。いちご色の本棚に絵本や児童書が並ぶ

 3階建ての文学館の1、2階にある本棚には「楽しい物語であること」を基準に選んだ約1万冊の絵本や児童書が並ぶ。貸し出しはしていないが、館内や外の公園で読むことができる。「初めて自分で本を読むようになった子が、1冊読み切って帰れる作品をコアに集めた」と角野さんは話す。

角野さんの仕事場を再現したコーナーもある

 蔵書は、作者やジャンルごとには並んでいない。角野さんのこだわりだ。「自分で見つけてほしいの、好きな本をね。だから、あえてアトランダムに置いたんです。便利にはしなかった。便利にするというのは、方向性を押しつけることになりかねないですから」

「魔法の文学館」の外観。なぎさ公園の丘に立つ=東京都江戸川区南葛西

 公園の丘に立つ文学館の外観は純白だ。中に入ると、「魔女の宅急便」の舞台「コリコの町」をイメージしたいちご色の世界が広がる。建築家の隈研吾さんが設計した。隈さんは「外から見ると家のように小さく、中に入ると町のように大きい。建物の中に一つの町が入っているという、逆の発想を実現している」と狙いを語る。

2階のライブラリーには明るい光が差し込む

 外の光があまり届かない1階とは反対に、2階のライブラリーはガラス張りでたっぷり採光する。「町には明るい場所もあれば、光があまり入らない場所もある。いろんな光の場所が想像力を刺激してくれるのではないか」(隈さん)

角野栄子さん

 想像力から生まれるのが「表現したい」という気持ちだと角野さんは考える。「おもしろい物語を読んだら、自分も続きを書きたい、遊んでみたい、という気持ちになるでしょう。自由に遊んでくれたらいいんです」

 縛られず、心のままに。角野さんが物語を生み出す姿勢そのものだ。「私、終わりを決めないで書くんです。決めると自分がおもしろくないし、物語がやせ細っていく。物語の先が見えないほうがおもしろいでしょう。本を書くときも、テーマはないんです。読者が受け取ってくれたものが、テーマになる」

 本は、生きる力を与えてくれる。「本を読むことによって、自分の中に辞書ができる。人は自分の体のなかから出てくる言葉でしか書けないし、話せない」。いまの時代にこそ、必要な力だ。「自分の言葉を持たないと生きていけないと思うんです。私は戦争を経験しているから、そうしないとズルズルと引っ張られていってしまうことを見ている。一人一人に自分の言葉で、命について考えていただきたいんです」

 入館は原則、日時指定の事前予約制で、公式サイトから申し込む。(田中瞳子)=朝日新聞2023年11月15日掲載